高齢者が利用しやすいホテルづくりが急務
少子高齢化が進んでいる上に、若い世代がお金を使わない傾向が強い現代の日本では、高齢者が快適に利用できるホテルづくりが急務となっています。国土交通省でも高齢者、障がい者が快適に利用できるホテルづくりのガイドラインを作成しています。
手すりやスロープの設置などの設備だけではなく、接客面でも高齢者に快適に利用してもらうことを考えなければなりません。どのような配慮・工夫が必要なのか考えていきましょう。
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バリアフリー化・ユニバーサルデザイン化が必要な設備やサービス
高齢者が快適にホテルに滞在するためには、安全性の高い客室や設備が必要です。高齢者や身体が不自由な人が、使いやすいように配慮した「バリアフリー化」が従来よりも強く求めらるようになりました。
また、最近では年齢や障がいの有無に関わらず、だれもが快適に利用できることを目指した「ユニバーサルデザイン化」を取り入れる施設も増えています。ここでは、特にバリアフリー化・ユニバーサルデザイン化が必要なホテルの設備を紹介します。
浴室やトイレ
水気で滑りやすい浴室や、ひとりで利用するトイレでは、転倒を防止するための対策が必要です。手すりや滑り止め、具合が悪くなった時に人を呼ぶための緊急ボタンなどを取り付けましょう。
また、大浴場に特殊な滑りにくい畳を敷いたホテルもあり、高齢者や足の悪い人も安心してリラックスできると好評です。
段差を減らす
館内はなるべく段差が少なくすることが望まれます。階段の代わりにスロープを設置したり、客室の入口などがフラットに設計されていると、車いすの人や杖をついた人も通りやすくなります。
また、段差がある場所には大きな文字で「段差注意」と書かれた看板などを設置すると、転倒によるケガなどを防ぐことができます。
高齢者に配慮した食事の提供
料理はとても重要なおもてなしのひとつです。高齢者に快適な滞在を提供するには、料理にも工夫が必要です。咀嚼しやすく消化に良いメニューで、もちろん美味しいことが望まれます。
大阪にある有名ホテルのレストランでは2013年から、「食のユニバーサルデザイン」を考慮したフレンチのコース料理を提供しているそうです。予約の電話の際に噛む・飲み込む力をヒアリングし、ひとりひとりに合った食材や調理方法を提案し、コース内容を決めるそうです。
ここまでのきめ細やかな対応は、どのホテルでもすぐに実現できるというものではありませんが、現在さまざまな食品メーカーやレストランが、高齢者向けのメニュー開発に力を入れています。
今は、高齢者が美味しく食べられるメニューが充実していく途中の段階と言えるでしょう。
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高齢者への接客で心がけるべきこと
高齢のお客様に気持ちよく過ごしてもらうには、館内の設備を整えるだけでなく、接客にも工夫が必要です。誰もが高齢になれば、視力や聴力が衰えて、忘れっぽくなってしまうものです。そこをふまえてどのような対応が望ましいのかを考えていきましょう。
話すスピードと声のトーン
高齢者への接客でまず気を付けたいポイントは、話をするときのスピードと声のトーンです。高齢になると、早口でキーの高い声は聞き取りづらくなるものです。ゆっくりと、少し低めのトーンで話すように心がけると良いでしょう。
また、耳の遠いお客様にはつい大きな声で話してしまいがちですが、他のお客様への配慮も必要です。あまり大きな声にならないように気を付けましょう。声のボリュームを出すよりも、口をはっきりと動かした方が明瞭に伝わります。
質問は「はい」か「いいえ」で答えられるように投げかける
高齢のお客様に質問するときは「はい」か「いいえ」で答えられるように投げかけましょう。
例えば、「お風呂とお食事はどちらを先になさいますか?それともこれからお出かけですか?」という質問では一文が長く、人によっては何を聞かれているのか理解が追いつかないことがあります。
「もうお風呂に入りますか?」「今から食事にしますか?」「今から出掛けますか?」という風に、ひとつひとつ簡潔に質問すると答えやすくなるはずです。
また、このように質問することで話が脱線しにくくなり、効率的な対応ができるメリットもあります。
分かりやすい言葉を使う
高齢者は、新しい言葉やカタカナ言葉が苦手な傾向にあります。ホテルでよく使われる言葉は、下記のようにわかりやすい言葉に言い換えてみるとよいでしょう。
- ルームウェア→部屋着、寝間着
- バスルーム→お風呂場、浴室
- クローク→荷物預かり所
- フロント→受付
このような言葉は、高齢者に限らず誰にでも分かりやすいですね。言葉もユニバーサルデザインの観点で選びましょう。
シルバースター登録制度
高齢者が快適に過ごせる設備やサービスが整ったホテルを認定する「シルバースター登録制度」をご存じでしょうか。
この制度は、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会による取り組みです。高齢者がホテルで快適に過ごすため、以下のような項目を定めています。
- 共同浴室は、手すり、スロープ、シャワーチェアー、椅子やベンチ等を設置して高齢者の利用に配慮すること
- 階段等には手すりを設置すること
- 適正な区域内に、往診等の対応措置がとれる医療施設を有すること
- 客室内浴室やトイレには必要に応じ、手すり等が設置されていること
- 食事は高齢者に配慮したメニュー(献立)の提供もできること
こういった項目が17個あり、ホテルが申請し、審査に合格すると緑色のハートマークが付与されます。
また、宿泊施設の予約サイトには、シルバースター登録された宿の専用ページなどもあります。宿泊先を選ぶときの参考にしてみてはいかがでしょうか。
参照:シルバースター登録制度について/シルバースター登録制度のあらまし
完全バリアフリーの北海道のホテル
各ホテルで、今回紹介したようなバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化の取り組みが進んでいますが、北海道には完全にバリアフリー化されたホテルがあります。
ホテルを運営するのは、道内にグループホテルを有する社会福祉法人です。グループホームの入居者を連れて旅行をする際、宿泊施設の対応がネックになったことが何度もあったそうです。
そこで、だれもが気兼ねなく利用できるホテルを作りたい、と考えて実現したホテルです。高齢者や障がい者も快適に滞在できるように、下記のような取り組みがされています。
- 車いすで利用できる露天風呂やサウナ
- 家族風呂には入浴介護用ベッドを設置
- ベッドは全室自動リクライニングベッド
- 歩きやすい硬質カーペットを採用
全自動リクライニングベッドや硬質カーペットは、体に不自由が無い人にとっても快適だと好評です。
また、このホテルは障がい者の採用にも積極的です。さまざまな障がいを持つ人が、レストランでの配膳やコック見習い、ピアノ演奏などの仕事をしています。
障がいがある人も無い人も同様に、社会生活を送ることを目指すノーマライゼーションという取り組みがあります。
設備のバリアフリー化、ユニバーサルデザイン化を進めることで、働きやすい環境になり、ノーマライゼーションも推進できるのですね。
高齢者に快適なホテルは誰にとっても快適
少子高齢化社会でホテルに求められているのは、安全性を重視した設備や、スタッフの分かりやすい案内、自分の体に合った食事などです。
手厚い対応ができるだけの人員確保など、課題もありますが、高齢者に快適なホテルを目指せば、自然に誰にとっても快適なホテルになるのではないでしょうか。