接客とは何か
「接客」という言葉を辞書で調べると「客を接待すること」と書いてあります。さらに「接待」を調べると「客をもてなすこと」とあります。
接客というと、ホテルのフロント係や客室係、小売店のレジ係やレストランのウェイターなどが思い浮かびます。彼らの仕事は、受付や商品の販売、オーダーを取って食事をテーブルに運ぶことですが、それだけでは単なる「作業」です。
接客とは、それらの業務を通してお客様に「満足」を提供することなのです。ホテルなどの施設の利益を出すには、他との差別化が必要です。デラックスな設備を揃えたり、低下価格で商品やサービスを提供する方法もありますが、それらはライバル企業でもすでに取り組んでいることでしょう。
差別化に有効なのは、やはり質の高い接客です。同ランクで価格帯も同等のホテルであれば、やはり気持ちの良い接客をするホテルを選びますよね。質の高い接客は、商品やサービスの付加価値になるのです。
反対に、どんなに外観や内装が立派なホテルでも接客の印象が悪ければ、お客様にとってホテルの価値は下がります。接客の品質が、ホテルや飲食店、小売店に対するお客様からの評価に大きく影響するのです。
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「接客」と「サービス」の違い
接客業はよく「サービス業」とも言われます。しばしば同義語として扱われる「接客」と「サービス」ですが、この2つの言葉には実は違いがあるのです。
サービスは、飲食業でデザートを無料でプレゼントをしたり、小売業で商品を値引きするなどの物質的な価値を提供することが含まれる言葉です。
一方接客とは、精神的な価値を提供することです。お客様にはきはきと挨拶をする、お客様の要望に沿ったプランや商品をおすすめする、ご意見にしっかりと耳を傾ける。
このような対応は、おまけや値引きで「お得だった!」と感じるのとはまた別の満足感を、お客様にもたらすのです。
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良い接客に必要なこと
良い接客がサービスや商品の価値を高めるということが、お分かりいただけたのではないかと思います。それでは、「良い接客」に必要な要素について見ていきましょう。
マナー
マナーとは、「相手を不快にさせないための思いやり」です。お客様の滞在時間が長いホテルでは、ずっと気持ちよく過ごしてもらうため、特にマナーが大切なのです。接客に当たる前には必ず身だしなみをチェックしましょう。
- ユニフォームに目立つ汚れやしわが無いか
- ヘアースタイルやメイク、歯に清潔感があるか
- ネクタイが曲がっていたりストッキングが伝線していないか
- 自然な笑顔か
そして正しい言葉遣いも大切なマナーです。接客業初心者は尊敬語と謙譲語をごちゃまぜにしがちです。また、接客業初心者に限らず、自分の言葉遣いの間違いには気が付きにくいものです。従業員同士で言葉遣いを確認しあう機会を設けると良いかもしれません。
臨機応変さ
接客業をしていると、実にさまざまなお客様に出会います。特にホテルには、外国人のお客様や心身に障がいのあるお客様なども長時間滞在するので、ひとりひとりに合わせた臨機応変な対応が求められます。
と、言うのは簡単ですが、接客経験が浅いうちは、適切な判断はなかなかできないものです。知識や経験が蓄積されて徐々に自分で判断できるようになるのです。まずは想定外のことが起きても慌てずに、先輩や上司の指示を仰ぐところから始めましょう。
自分で判断できないことを素直に人に聞くというのも、立派に臨機応変な対応です。そして、聞いたことは忘れず、自分の蓄えにしましょう。
商品やサービスの知識を磨く
どんなに感じの良い態度でお客様に接しても、自分が携わる業務に対する知識が浅ければ、満足いただける接客はできません。ホテルであれば、一般常識やマナーの他に下記のような知識が望まれます。
- 館内や周辺の位置情報
- 提供しているプランの内容や価格
- ホテル周辺で運行してる公共交通機関の情報
上記は、ホテルマンがお客様から聞かれることが多い質問内容です。また、温泉宿であれば泉質や効能、レストラン担当であれば食材の産地や調理方法についての知識も磨きましょう。
お客様の知りたい情報を正確に素早く案内することで「プロフェッショナルな接客」という印象を与えることができるのです。
相手の真の要望を考える姿勢
接客では、相手の真の要望を考える姿勢が重要です。クレーム対応であれば、本当の不満の原因は何なのか、商品やサービスを求めているお客様は、何のためにその商品やサービスが必要なのか、最終的にどういう状態になりたいのかを探る必要があります。
たとえば、ホテルでは朝ゆっくり寝たい時ドアノブは「起こさないでください」という札をぶら下げますよね。この札をぶら下げたということは、お客様がとても疲れているのかもしれないということです。
ただ朝に起こさないだけではなく、とても疲れているお客様に、どう接すればご満足いただけるかを考えるのが一流のホテルマンなのです。
また、真の要望に応えるには、お客様の話によく耳を傾けることが欠かせません。特にクレーム対応では、きちんと聞いてもらえればそれだけで満足するというケースも少なくありません。また、話の腰を折ることは火に油を注いでしまうので、お客様が完全に話終わるまで、しっかりと聞きましょう。
「接客」から「接遇」にレベルアップしよう
「接客」の類似語に「接遇」という言葉があります。どちらも「お客様対応」を意味する言葉ですが、「接遇」にはお客様の状況に合わせてより手厚く、きめ細やかな対応をするというニュアンスがあります。
丁寧な接客を基本とし、そこに下記のような心遣いをプラスすることが接遇です。
- チェックアウト後、お客様の姿が見えなくなるまでお見送りをする
- 案内に時間が掛かった時は「お待たせいたしました」とひと言添える
- 「お客様」ではなくお名前に様付けで呼ぶ
- 「良くお休みになれましたか」「お食事はご満足いただけましたか」など軽くご意見を伺う
どれも本当にちょっとしたことなのですが、このような心遣いを受けるとお客様に「特別な気遣いをして貰えた」という印象を与えることができ、リピーターの獲得に繋がります。
喜ばれる接客事例
今回紹介した接客に必要なポイントはごく基本的なことです。ホテルやお店のコンセプトや、お客様のタイプによって「喜ばれる接客」は多種多様です。
ここでは、実際にお客様によろこばれた接客の事例を見てみましょう。
- 宿泊中にお腹を壊した時、特別におかゆを作ってくれた
- 受験のために宿泊したホテルで縁起担ぎのチョコレートを貰った
- 生魚が食べられないのでお刺身を焼いてもらったら、翌日は最初から焼いて出してくれた
どのエピソードも、それぞれのお客様の状況に合った心遣いですね。こういった心遣いをするためにも、お客様の話を良く聞いて、真の要望を考えることが不可欠なのです。
接客の品質は施設の評価に大きく影響する
今、インバウンド客の増加により、ホテルや飲食店などのサービス施設が増えつけています。ライバル企業に勝ち続けるには接客・接遇のレベルを高めることが不可欠でしょう。
そんな状況で、良い接客力・接遇力を身に着けた従業員は、活躍の場が広がっていくのではないでしょうか。これからホテルなどの接客業で働きたいと考えている人も、今接客業に従事している人も、心遣いに磨きを掛けていきましょう。