観光業界はSDGsにおいて重要な役割がある
まず最初に、SDGsについて説明します。SDGsとは、(エスディージーズ)2015年9月の国連サミットで策定された、「2030年までに貧困に終止符を打ち、持続可能な未来を追求する」ために取り組むべき施策のことです。
設定されている17のゴールの中には、観光業界がリードするべき3つの項目について詳しく説明します。なお、SDGs全般の詳細については下記のページをご参照ください。
また、観光業に分類される職種や観光業が持つ役割については、以下の記事でまとめて紹介しています。
ゴール8:働きがいも経済成長も
ゴール8の「働きがいも経済成長も」は、「包摂的かつ持続可能な経済成長及び全ての人々の完全かつ生産的な雇用と働きがいのある人間らしい雇用(ディーセント・ワーク)を促進すること」が目標とされています。このゴールは12個のターゲットで構成されています。
ターゲットの中に「2030年までに、雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策を立案し実施する」という項目があります。
観光業を通して地方を活性化させ、土地の文化を伝えるという働きがいのある雇用の創出を促すゴール設定ですね。最近活発に取り組まれている地域活性化や、地元の生活に密着した宿泊が体験できるファームステイなどもこの一環と言えるでしょう。
ゴール12:つくる責任つかう責任
ゴール12の「つくる責任つかう責任」は持続可能な生産消費形態を確保すること」を目的としており、11のターゲットで構成しています。
観光業に特に関係の深いターゲットは「雇用創出、地方の文化振興・産品販促につながる持続可能な観光業に対して持続可能な開発がもたらす影響を測定する手法を開発・導入する」という項目です。
ゴール8の「働きがいも経済成長も」と似ていますが、ゴール8は政策の立案と実施を目標としてますね。それに対してゴール12は取り組みがもたらす影響を測定する手段を得ることが目標とされています。
実行したらそれで終わりではなく、より良い雇用創出や、地方の文化振興・産品販促を持続するためにきちんと結果を把握しようという取り組みですね。
ゴール14:海の豊かさを守ろう
ゴール14の「海の豊かさを守ろう」は観光業界のみならず、世界全体で目指すべきことですが、14のターゲットの中で特に観光業界が大きな役割を担う項目があります。
それは「2025年までに、海洋ごみや富栄養化を含む、特に陸上活動による汚染など、あらゆる種類の海洋汚染を防止し、大幅に削減する」という項目です。
観光業界は、海洋に大きく影響を与えます。ビーチのリゾート開発で生態系が変わったり、観光施設や宿泊施設に大勢人が集まって、汚水や食べ残しのゴミを大量に排出するといった課題があるのです。
また、観光地に限ったことではありませんが、プラスチックのストローやカップ、ビニール袋などが海に流れてマイクロプラスチックとなり、海の生き物に悪影響を与えています。
ゴール14の達成に向けて、レジ袋の有料化やプラスチックストローの廃止が世界各地で取り組まれています。また、宿泊施設でも環境に配慮したアメニティの導入や、食材ロスによるゴミを削減するためAIの導入が進められています。
参照:SDGsについて/国連世界観光機関(UNWTO)ホームページ
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日本の観光業におけるSDGsの現状
観光業がリードするべきSDGsの3つのゴールは、日本でも積極的な取り組みが求められていますが、まだまだ充分に浸透しているとは言えない状況です。SDGsに置ける日本の観光業界の現状と課題点を解説します。
観光客の意識が世界と比べて低い
日本では観光=純粋に楽しむものという意識が強く根付いています。そのため、観光旅行においてSDGsに取り組もうという意識が低い傾向があります。
また「旅の恥はかき捨て」という諺が古くからありますが、旅先ではゴミのポイ捨てや食べきれないほどの料理のオーダーなど、マナー面でも環境活動面でも良くない行動をしがちですね。
確かに観光旅行は楽しむべきものですが、その楽しさを持続可能なものとするためには、ひとりひとりが意識を持ち、ちょっとした気遣いをすることが重要です。旅行にエコバックを持っていくだけでもSDGsに貢献できるでしょう。
観光業界の企業も取り組みが遅れている
観光客の意識が低い一方で、日本の観光業の企業も世界と比較するとSDGsへの取り組みが遅れています。取り組んでいる企業でもCSR活動の一環であったり、従業員の労働環境の改善に留まっているのが現状です。
小さな活動も、もちろん有効で意義のある取り組みです。しかしながら、国連が掲げた2030年までに世界をより良くするという目標を達成に向けて、大きな成果を生み出すレベルには達していない企業が多いのです。
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SDGsに取り組む日本の観光業の事例
世界に比べて遅れているとは言え、高い意識をもってSDGsに取り組んでいる日本の観光業の企業もあります。どのような取り組みがされ、どういった成果が出ているのか事例を紹介します。
ひと工夫加えた朝食バイキングでフードロスを大幅に削減
岡山県のあるホテルでは、朝食バイキングでフードロスの削減に成功しました。一般的な朝食バイキングでも、賞味期限の近い食材から使うことでフードロスを減らせますが、それだけではありません。
このホテルの朝食はフルバイキングではなく、メインのお料理はひとりずつ注文を取ります。そしてご飯やお味噌汁、サラダなどのロスが出にくい食材のみをバイキング形式にしています。この工夫で、お客様の食べ残し以外のフードロスをほぼゼロにすることに成功したのです。
毎日の朝食バイキングでの、フードロスを最低限に抑えられれば、年間での成果はかなりのものですね。こういった取り組みはしっかりと評価され、このホテルは平成24年度の岡山市から「事業系ごみ減量化・資源化推進優良事業者」として表彰されました。
風力エネルギーで大型船舶を動かす海運会社
フェリーやクルーズ船での旅行はゆったりとして良いものです。しかしながら、大きな船舶を動かすには大量の石油が必要です。この燃料の問題を解決するべく、大手海運会社では風力を利用し、石油の消費を大幅に減らすことを目標とした取り組みがされています。
巨大な帆パネルを船舶に設置して、風力エネルギーを最大限に取り込む設計で、2009年に発足して以来着々と研究が進み、2020年の就航が目指されています。
様々な角度からSDGsに取り組むリゾート企業
マリーナやマリンリゾート、ホテルやゴルフ場など数多くのリゾート施設を手掛ける企業では、様々な角度からSDGsへの取り組みがされています。
プラスチックストローの廃止やシェアサイクルの提供などの他、シャトルボートには世界初の電池で動く船を運航しています。この運行は実用化試験を兼ねており、次世代の水上交通を目指して大学と共同で研究・調査が進められています。
食に関しての取り組みも熱心で、リゾート施設の各レストランでは地産地消を推進しています。また、日本各地の食文化を応援する取り組みもあり、その地域ならではの旬を楽しむイベントが開催されています。
参照:日本の観光業のSDGsへの取り組みについて/JAPAN SDGs Action Platform(外務省)
観光業がSDGsに取り組むと世界はどう変わるか
観光業界では、自社に直接関わる環境の保全のみならず、食料や備品に関わる人の労働力の見直しも進んでいます。発展途上国で生産される食料や備品の生産者は、不当に安い価格で商品を買いたたかれて、きちんとした報酬を受け取れていないことがあります。
生産者がこうした不利益を受けることを防ぐために、フェアトレードのものを仕入れる企業が増えつつあります。アムステルダムには全ての備品がフェアトレードのものというホテルも存在します。
人々の注目を浴びやすく、影響力の大きい観光業界でこういった動きが広がれば「2030年までに貧困に終止符を打ち、持続可能な未来を追求する」というSDGsの最終的なゴールへの距離がグッと縮まるのではないでしょうか。
観光客も企業も、まずはSDGsへの意識を持って、できるところから着手して、世界をより良くしていきましょう。