2026年、観光地にはインバウンド客が戻り、宿泊需要は回復しています。しかし一方で、現場は深刻な人手不足による機会損失やコスト増に直面しています。
客室稼働の制限や清掃コストの高騰は、経営を圧迫するだけでなく、事業売却(M&A)の評価にも直結する重大な要素です。
現在のM&A市場において、買い手が最も重視するのは建物などのハード面よりも、運営を継続できる人材などのソフト面です。
人材の有無が売却価格に数億円規模の影響を与えることも珍しくありません。
この記事では、ホテル・旅館M&Aの最新動向、株式譲渡と事業譲渡の違い、相場の算出方法、そして高値売却を実現した企業の成功事例について解説します。
この記事のポイント
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✔人手不足のまま売ると、本来の価値より安く買い叩かれる
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✔人材さえ揃っていれば、建物が古くても高く評価される
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✔焦って売る前に、まずは採用で黒字化して準備を整えることが大切
ホテル・旅館業界のM&Aとは?2026年の最新状況と動向
ホテル・旅館のM&Aとは、単なる不動産や設備の売買ではありません。
そこで営まれてきた事業そのものと、従業員の雇用、そして長年培ってきた「ブランド(のれん)」を第三者へ引き継ぐ経営戦略です。
2026年現在、業界はかつてない需要の回復と人手不足による受け入れ体制の限界という二つの大きな波に挟まれています。
まずは、市場を取り巻く最新の状況を整理しましょう。
需要の爆発:インバウンド4,200万人時代の到来
JNTO(日本政府観光局)の推計によれば、2025年の訪日外客数は前年比15.8%増の4,268万人に達し、過去最高を大幅に更新しました。
12月単月で見ても361万人を超えるなど、その勢いは回復というレベルを超え、まさに爆発といえる状況です。
特筆すべきは、その恩恵が都市部だけでなく、地方の観光地にも波及している点です。
国内外の投資家や運営会社は、「立地さえ良ければ、運営を回すことで確実に利益が出る」と判断しており、ポテンシャルのある施設に対しては強烈な買い手需要が存在しています。
供給の限界:過去最多の人手不足倒産と賃上げ難
観光需要が急拡大する華やかなニュースの裏側で、現場を支える供給力は限界を迎えています。
帝国データバンクの調査によると、2025年の「人手不足倒産」は427件を記録し、過去最多となりました。
さらに深刻なのは、その77.0%を従業員10人未満の小規模事業者が占めているという事実です。
大手宿泊施設が人材確保のために大幅な賃上げを進める中、資本力のない中小宿泊施設はそれに追随できず、採用競争で敗北しています。
その結果、客足はあるのに黒字のまま事業継続を断念する「あきらめ廃業」を選択するケースが急増しているのです。
買い手の動向:評価基準は不動産から運営能力へシフト
かつてのホテル・旅館のM&Aでは、立地や建物の資産価値が最優先されました。しかし2026年現在、買い手の評価基準は劇的に変化しています。
建築費の高騰により建物自体の資産価値は上がっていますが、買い手がそれ以上に厳しくチェックしているのは、人が定着しており、オペレーションが回っているかという点です。
「お客様は来るのに、スタッフ不足で回せない」という施設は、買い手にとっても再生難易度が高いリスク資産とみなされます。
反対に、建物が古くても安定した運営チームを持つ施設には、運営リスクが低い優良物件として人気と高値が集中する傾向にあります。
\あきらめ廃業を選ぶ前にできることを/
資料をダウンロードするホテル・旅館M&Aの2つの手法|会社ごと売る株式譲渡か事業だけ売る事業譲渡か
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ホテル・旅館のM&Aには、大きく分けて「株式譲渡」と「事業譲渡」という2つの手法があります。
それぞれ税金、手続きの手間、そして従業員にいつ知られるかというリスクが大きく異なるため、自社の状況と目的に合わせて慎重に選択する必要があります。
株式譲渡(会社ごと売る):許認可・雇用をそのまま引き継ぐ王道手法
会社の経営権(株式)をそのまま譲渡する、ホテル・旅館のM&Aで最も選ばれている手法です。
最大のメリットは、「旅館業許可」「温泉利用許可」「飲食店営業許可」などの重要許認可を、再申請なしでそのまま引き継げる点です。
面倒な行政手続きで営業を止める必要がありません。また、金銭的なメリットも大きく、個人の株式譲渡益にかかる税金は約20%(申告分離課税)で済みます。
法人税がかかる事業譲渡(約30〜34%)と比較して、手取り額を確実に多く残せるのが魅力です。
事業譲渡(事業だけ売る):負債を切り離し、特定の施設のみ譲渡する
法人格は残し、ホテル事業(建物、設備、従業員など)だけを選んで売却する手法です。
「本館は手元に残して別館だけ売る」「飲食部門だけ残す」といった事業の切り出し(カーブアウト)を行う場合に有効です。
買い手にとっては、売り手の簿外債務(隠れ借金や訴訟リスク)を引き継ぐリスクを完全に遮断できる点がメリットです。
ただし、許認可は原則取り直しとなり、行政手続きに数カ月単位で時間がかかるため、クロージングまでのハードルは高くなります。
ホテル・旅館M&Aのメリット|売り手は事業承継、買い手は不動産獲得
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M&Aは、売り手と買い手双方に明確なメリットがあるからこそ成立します。
後継者不在という課題を解決し、事業を前向きに存続させるためのそれぞれのメリットを整理しました。
売り手のメリット|ホテル・旅館の事業承継と個人保証からの解放
売り手にとって最大のメリットは、廃業を回避し、長年守ってきたのれん(ブランド)を次世代へ繋げる点です。
- 後継者問題の解決:親族不在でも、屋号や歴史を絶やさず存続できる
- 個人保証からの解放:借入金の連帯保証を外し、安心して引退生活へ
- 従業員の雇用と待遇:大手資本への合流で、賃上げや雇用の安定を実現
このように、M&Aは単なる事業の精算ではありません。
経営者としての責任を全うし、豊かな老後を手に入れるための前向きな出口戦略となります。
買い手のメリット|好立地不動産の確保と開業までの時間短縮
買い手企業にとって、M&Aの最大のメリットは時間を買えることです。
- 開業スピード(時間を買う): 新築工期をカットし、許認可の手間なく即座に営業開始
- 希少な好立地の確保:新規参入が難しい人気観光地や一等地を確保できる
特に2026年の現在は、インバウンド需要を取りこぼさないために「一日でも早くオープンしたい」という買い手の熱量が、かつてないほど高まっています。
成功の条件|メリットを最大化する鍵は運営人材の有無
双方がこれらのメリットを確実に手にするためには、ある絶対的な条件をクリアしなければなりません。それが運営人材です。
この両者のニーズが合致して初めてM&Aは成立します。
建物が立派でも、スタッフが不足していれば買い手の即稼働メリットが消滅するため、交渉の難航や大幅な値下げに直結してしまいます。
\ホテル・旅館の採用成功事例はこちら/
採用事例を見てみるホテル・旅館M&Aの相場と企業価値の決まり方
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中小規模のホテル・旅館M&Aでは、一般的に「年買法(時価純資産 + 営業権)」という算出方法が用いられます。
土地や建物の価値に、その事業が持つ稼ぐ力を上乗せして価格を決める最もスタンダードな手法です。
- 時価純資産:土地・建物・設備などを、現在の市場価格(時価)で評価した額
- 営業権(のれん代):実質営業利益(EBITDA)の3〜5年分が加算される
これだけではイメージしづらいため、同じ「資産価値3億円」の旅館で、運営状況によってどれだけ価格に差が出るかを見てみましょう。
このように、人材の有無が億単位の価格差を生む現実があります。
プラス査定の条件|利益が生み出す「のれん代(営業権)」
土地や建物の価格は市場相場で決まるため、他社と差別化できません。
高値売却ができるかどうかの成否は、稼ぐ力であるのれん代をどれだけ積み上げられるかにかかっています。
ポテンシャルはあるが利益ゼロの場合
人手不足で稼働を落としているだけという主張は、残念ながらほぼ通用しません。買い手は予測ではなく、あくまで今の実績しか見ないからです。
ただし、以下の条件が揃えば評価される可能性は残されています。
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- ✔ 証拠がある:予約を断った件数など、確実な機会損失データがある
- ✔ 買い手の力:買い手自身が、すぐに人材を送り込める
とはいえ、不確実な評価を期待するより、採用で黒字化して実績を作ってから売るのが、高値売却への最短ルートであることに変わりはありません。
マイナス査定の要因|人手不足が招く「売り止め(機会損失)」
買い手が最も警戒するのは、人手が足りずに客室を稼働させられない売り止めの状態です。
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- ✔ 事業価値の毀損:本来の利益を逃していると将来性なしと判断され、大幅な減額対象となる
- ✔ 隠れ債務のリスク:無理なシフトによる未払い残業代などは、将来の負債として評価を押し下げる
売り手は「人がいれば稼げる」と考えますが、買い手には人を採用できないリスク物件と映ります。
この認識のズレが、価格交渉での決定的な溝となります。
\人がいないだけで安く売るのはもったいない!/
おもてなしHRで採用相談をする【事例公開】ホテル・旅館M&A|幸せな承継を実現する3つの成功モデル
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M&Aの成功とは、単に高く売れることだけではありません。誰と組むかでその後の未来がどう変わるのか、実名企業の実例を交えて紹介します。
1.【地域承継型】地元の有力企業に託し、雇用とのれんを守る
創業300年の「雲仙湯元ホテル」が、地元の冠婚葬祭大手「メモリード」へ譲渡した事例です。
2.【人材重視型】従業員満足を掲げるホワイト企業と組む
新潟県の「ホテル泉慶」のような、顧客満足(CS)以上に従業員満足(ES)を最優先する企業と組むケースです。
3.【事業再生型】高付加価値化のノウハウを持つプロと組む
京都府の「炭平旅館」が、ペット同伴専用やインバウンド富裕層向けなど明確な戦略を持つプロと組む事例です。
最短6カ月〜1年|ホテル・旅館のM&A成約までの4つのステップ
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M&Aは長期戦です。一般的な期間は半年から1年程度。どのタイミングで情報が開示されるのか、全体の流れを把握しておきましょう。
まずは専門会社と秘密保持契約(NDA)を結び、決算書や物件情報を開示して戦略を練ります。
ノンネームシート(匿名情報)で関心を持った買い手候補が現れたら、経営者同士の顔合わせ(トップ面談)を行います。
大枠の条件で合意したら、公認会計士や弁護士が現地に入り、詳細な監査(デューデリジェンス/DD)を行います。
監査で大きな問題がなければ、最終譲渡契約(DA)を締結します。
ホテル・旅館M&Aに関するよくある質問
ここでは、ホテル・旅館M&Aに関するよくある質問をまとめました。
従業員に知られずに検討を進められますか?
赤字経営や借金がある状態でも売却できますか?
売却前に建物をリフォームしたほうが高く売れますか?
売却額を最大化するための採用支援はおもてなしHRにおまかせ!
2026年のM&Aにおいて、売却額を左右する最大の変数は人材の有無です。
「人がいればもっと稼働できるのに」という悔しい減額を避けるため、売却前の採用強化は必須の投資と言えます。
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