ホテルで働く上で知っておきたい労働基準法
ホテルは人手不足の傾向にあり、会社員に比べて労働時間が長い場合が多いです。人手不足が顕著なホテルでは、違法な長時間労働が行われ、ニュースなどで話題になることがしばしばありますよね。
違法な長時間労働が原因で、心身に支障をきたすホテル従業員も居ます。そうならないためには、雇い主だけではなく従業員も労働基準法を理解し、正しく働くことが重要です。
次の項目から、ホテル業界で特に関わりの深い労働基準法の法律を解説しますので、ぜひ覚えておいてくださいね。
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ホテル業界と関わりが深い労働基準法は?
労働基準法の中で、ホテル業界との関わりが特に深い法律について解説します。雇い主にとっても労働者にとっても大切なポイントなので、しっかりと押さえておきましょう。
変形労働時間制
労働基準法では、「変形労働時間」が規定されています。労働基準法では1日8時間、また1週間で40時間以上の労働は原則させてはいけないことになっています。
ただし、業種によっては季節や曜日などで繁閑があり、業務量の差が出てきますよね。それを考慮し、一週間・一カ月・一年という単位内で、平均週40時間の労働時間を保てば良しとするのが変形労働時間制です。
この制度を利用してホテルの事業主は労働者に、閑散期は短時間労働・繁忙期は長時間労働という働き方をしてもらうことができます。平均して40時間を超えない場合は、繁忙期の長時間勤務でも残業代の支払い義務は発生しません。
休日のルール
休日は原則、0時から24時までの丸一日で取らせることが必要です。しかし、宿泊施設では、常に誰かしらが現場に出ている必要があります。
特に、ホテルのフロント係は1日目のチェックイン時間から2日目のチェックアウト時間までの勤務、というように日をまたいだ勤務体制になることも多いですよね。
こういった業務の実態をふまえてフロント係・調理係・仲番・客室係は2日間をまたいだ休日を取らせることも可能です。
例えば夜勤で入った労働者がチェックアウトの仕事を終えて11時に退勤し、次の出勤が翌日の夜19時となるような休日です。こうした休日の取らせ方をするには、一定の条件を満たす必要があります。
正午から翌日正午までの24時間を含んだ30時間の休息時間を確保することや、2日間をまたぐ休日を取らせる場合があることを予め労働者に告知することなどが義務付けられているので注意しましょう。
また、36協定で休日に労働させることを可能とする協定を結んだ場合は、休日出勤の命令を出すことが可能です。
36協定とは、労働基準法36条の「時間外・休日労働に関する協定届」のことです。企業が従業員に法定労働時間を超える労働や、休日労働をさせる場合、あらかじめ労働者の代表者と企業が書面で協定を結び、労働基準監督署へ届け出ることが必要になります。
また、36協定で休日出勤についての協定を結ぶだけでなく、労働契約などで規定を設けるなど、労働者の合意が必要です。
深夜労働の賃金
ホテルなどの宿泊施設では、24時間体制で現場に労働者を配置する必要があります。そのため深夜の勤務が所定労働時間という労働者も居ますよね。
所定労働時間であっても深夜割増賃金は支払いの義務があり、割増しになる時間・金額も労働基準法で定められています。
時間帯は22時から翌朝5時、賃金は日中の1.25倍とされており、この規定は遵守することが義務付けられているのです。深夜勤務の労働者は、給与明細で間違いがないか必ず確認しましょう。
また、深夜割増賃金と混同されがちな「夜勤手当」と呼ばれるものもあります。夜勤手当は企業が任意で付けるものなので、有無や割合、対象となる時間帯もそれぞれ異なります。
参考:厚生労働省/労働基準法第三十七条(時間外、休日及び深夜の割増賃金)
繁忙期の有給休暇
ホテル業界は人手不足の傾向があり、有給休暇が取りにくい業界と言われています。
有給休暇は原則、希望日に取得させることが義務付けられていますが、労働基準法で「事業の正常な運営を妨げる場合」は、別の日に変更して取得させることが可能です。
例えば労働者がゴールデンウィーク中に有給休暇を取りたいと申告した場合、休まれるとホテルの営業ができなくなる、というようなケースですね。
しかし、労働基準法で定められているとはいえ希望日に有給休暇が取れないことに不満を抱く労働者は少なくないはずです。雇い入れの時にしっかり説明したり、日ごろからよくコミュニケーションを取ったりして有給休暇に関するトラブルを未然に防ぎましょう。
ホテル&旅館業界の就職・転職についての記事
ホテル業界は労働基準法違反が多い?
ホテル業界は慢性的な人手不足が続いています。特に日系のホテルでは特に古い考え方や昔ながらの体質が残っており、違法な長時間労働が問題となっているようです。
労働基準法を無視して働かせたり、残業時間が月200時間を超えたり、名ばかりの管理職にわずかな手当てを付け、実質的にサービス残業させ放題となっていることも少なくありません。
このような労働基準法で定められた労働時間を守らないホテルには当然、人材は定着せずさらなる人手不足を招いているのです。
労働基準監督署が再三にわたって是正勧告を行うも改善が見られず、労働基準法違反の疑いで支配人が書類送検されたケースもあります。
もし、勤めているホテルに労働基準法違反があった場合、労働者はどうすれば良いのでしょうか。
見切りを付けて転職するのもひとつの手段ですが、まずは労働基準局などの公的機関に相談することをおすすめします。自治体によってはインターネットからの問い合わせフォームで、匿名での通報ができることもあります。
また、労働組合を結成して集団で労働環境の改善を要求する手段もあります。いざという時のために、タイムカードのコピーなど証拠も集めておきましょう。
ホテルにおけるホワイト企業の見分け方について詳しく知りたい方は、以下の記事を参考にしてください。
働き方改革でホテル業界がするべきこととは?
厚生労働省による働き方改革に伴い、労働環境が見直されています。これはホテル業界も例外ではないため、自社で取り組めるものを従業員側から積極的に提案していきましょう。
適切な休日を確保する
多くのホテル業界では、有給休暇だけではなく従業員が休みたい日に休めないことがあるようです。ただ、従業員が希望した日にしっかりと体を休めると、仕事に対するモチベーションアップにつながるでしょう。
さらに、下記のような方法を取り入れると、人材不足などが解消され、次第に有給休暇も取得しやすい環境になるのではないでしょうか。
- シフトを組む際、先に休日を取得したい日を決める
- 一斉休日を確保するために休館日を設定
- 年に数回連続休暇の推奨をする
なお、宿泊業界の労働条件については以下の関連記事もご参照ください。
組織体制の見直しを図る
ホテル業界は、繁忙期に入ると今いる人員で業務を回すため、過重労働になりやすく、高品質なサービスに影響することもあるようです。
従業員が気持ちにゆとりを持って、接客に集中してもらうためには組織体制を見直さなければなりません。
例えば、忙しい時期は正社員の休日を削るのではなく、他部署へ応援要請をしたり、パート社員・派遣社員を活用したりなどの方法があります。
お部屋案内など比較的容易にできる業務を任せることで、従業員の負担を軽くできますね。
正確な労働時間を把握して無駄を削減する
長時間労働やサービス残業など、何かとブラックなイメージが強いホテル業界の労働環境ですが、労働時間と休憩時間を明確に把握することで良いイメージに変わるでしょう。
たとえば、労働時間や中抜けの時間などを見える化にしたり、残業が多く適切な休日が取れていない従業員との定期的な面談を図ったりなど。
日々の労働時間などを把握することで、無駄のないメリハリのある働き方につながるでしょう。
まだまだ改革途中の段階ではありますが、これから徐々にホテル業界=ブラックのイメージが薄れ、より働きやすい環境になっていくのではないでしょうか。
そのためにも、働き手側から勤務先へ要望することも大事でしょう。
ホテルにおける労働基準法を理解して働こう!
労働基準法は、雇い主だけでなく労働者も内容を理解する必要があります。心身ともに健康で長く働き続けるためには、労働基準法を遵守した働き方をしなければなりません。
「これっておかしいのでは?」と思うことがもしあれば、公的機関などへ相談し、自分の権利を守りましょう。
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