ホテル業界で働き方改革を実施するメリット
働き方改革とは、働く人の事情に応じた働き方を自分で選択できるようにするための改革です。具体的には、
- ・労働時間の短縮
- ・有給休暇取得の義務化
- ・雇用形態にかかわらず公平な待遇を確保
などがあります。
働き方改革を進めることで会社側・働く人側、双方にメリットがあります。会社にとっては人材の確保、生産性の向上、従業員の意欲向上など。働く人にとってはプライベートの充実、モチベーションアップ、心身の健康などが挙げられます。
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宿泊業に影響が大きい働き方改革の法律
働き方改革に関連する法律の中には、宿泊業界に大きく影響するものも存在します。どんな法律があり、どのように守る必要があるのか解説します。
年次有給休暇の確実な取得
日本の企業はどの業界でも、従業員の年間休日数が少なく有給が取得しづらい傾向がありました。とりわけ宿泊業界や飲食業界ではそれが顕著でしたよね。
この状況を改善するため、全ての企業に対し、10日以上の有給休暇が付与されている従業員に、年間で最低5日間の有給を取得させることが義務付けられました。
この義務に違反すると、有給を取得しなかった従業員ひとりあたり30万円以下の罰金が企業に課せられます。
正規・非正規雇用労働者間の不合理な待遇差の禁止
こちらは2020年の4月から施行される法律です。これまでは同じ労働をしていても、正社員と非正規社員の間には、賃金や福利厚生などで待遇に大きな差がありました。
こうした格差を無くし、雇用形態に関わらず公平な待遇するための法律です。宿泊業界ではパートやアルバイトで働く人が多いため、影響を受けて労働条件の大幅な見直しなどが必要になるでしょう。
しかし、本来は非正規社員の待遇改善を目的とした法律でありながら、非正規社員の待遇を向上させるのではなく、正社員の待遇を下げる企業が出てくる懸念があると指摘されています。
施行後は各企業の取り組みを見て、随時テコ入れをしていく必要が出てくるのではないでしょか。
勤務時間インターバル制度
勤務時間インターバル制度は努力義務で、1回の勤務を終えたら次の勤務まで、最低11時間のインターバルを取らせることを推奨する制度です。
宿泊業界は従業員が24時間交代で働かなければ成り立たない業界です。そのため夜勤→数時間の仮眠→早朝出勤といったシフトが組まれることが少なくありません。不規則で負担の大きい労働時間のため、体を壊す人が多く離職率が高まる原因のひとつになっています。
飲食店やコンビニエンスストアなど、宿泊業以外のサービス業でも同じ問題を抱えており、改善するための努力が求められています。
募集期間は終了していますが、厚生労働省による補助金の制度も設けられていました。こうした公的なサポートもぜひ活用し、従業員が無理なく仕事を続けられるように取り組みましょう。
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ホテル業界の働き方改革の課題は?
中長期的に見れば会社にとってプラスでも、簡単には実行に移せないのが改革です。ホテル業界にとって、働き方改革を進めるうえでの課題とは何でしょうか?
残業前提のシフト
ホテルの仕事は残業が発生しやすいと言われています。特に接客がメインとなる部署では、お客様対応が一段落するまでは上がれないのが一般的です。
一方、働き方改革をきっかけに労働基準法が改正され、時間外労働の上限規制が規定されました。これまでのように残業に頼ったシフトでは、今後はホテル運営が難しくなっていくでしょう。
また、労務時間インターバル制度の努力義務もあり、人員が不足したときにどうやって労働力を補うのかが重要な課題です。
休日の取りにくさ
前項目で解説した通り、労働基準法が改正され、2019年から会社側が労働者に対し、年5日の有給休暇を取得させなくてはならなくなりました。ホテル業は休みが取りにくいと言われており、とくに連休や有給休暇の取得は難しいのが実情です。
人手不足
ホテル業界は慢性的な人手不足が続いています。例えば1人の労働時間を短縮し休日を増やすためには、それをカバーする人手が必要ですよね。
しかし現状、「それができるほど従業員数に余裕がない」が、多くのホテルの本音のようです。
利益率が下がる
一人当たりの労働時間を短縮するためにスタッフを増員したり、アルバイトやパートスタッフの待遇を社員並みに引き上げたり、これらの対策はコストがかかるもの。
コストがかさめばかさむほど、利益は下がりますよね。これに危機感を覚えるホテル関係者は少なくないようです。
ホテル業界の働き方改革を成功させるポイント
働き方改革を進めるうえでの課題を挙げてみましたが、果たしてこれらを解消し、働き方改革を推進することはできるのでしょうか。成功のポイントをまとめました。
シフトの見直し
真っ先に行うべきは、シフトの見直しです。
自ホテルで働くすべての人のシフトを一覧にしてみると、忙しい/ヒマな時間帯、人員の余剰などが可視化されます。つまり勤務体系のムダをあぶり出せるのです。
これにより「この時間帯のフロントは〇人でいい」「ハウスキーピングの手が足りないときは、他部署からヘルプに出す」などの対策が立てられます。
AI化、効率化ツールの導入
最近では、AIなど便利なツールを活用するホテルも増えてきました。
例えば客室に設置したタブレットにコンシェルジュ機能を設け、照明のオンオフをタップ1つで操作できるようにしたり、「よくある質問」を画面上で確認できるようにしたりといった具合です。
この場合、タブレットを導入する先行投資は必要になりますが、お客様対応にかかるスタッフを減らせるので、長い目で見れば人件費の削減につながります。
スタッフのマルチタスク化
シフトの見直しの項目で述べた通り、利益を落とさずに働き方改革を進めるには、1人のスタッフが複数の業務に対応できる必要があります。当然、担当部署でないからといって、サービスレベルを落とすことはNGです。
どのスタッフがどこで働いても一定のクオリティを提供できるよう、マルチタスク化を進めましょう。
多様な人材を雇用
ホテル業界に限らず、日本での外国人労働者の受け入れについてしばしば話題になっていますね。慢性的な人手不足に陥っているホテル業界においても、これが一つの突破口になるはずです。
外国人労働者だけでなく主婦やシニアなど、何らかの理由でフルタイムでは働けないが、働く意欲/スキルは十分ある人材を雇用する。これも働き方改革の重要なテーマであり、同時にホテルの人手不足を解消する手段となるはずです。
ホテルの働き方改革の成功事例
全館休業日を設定するホテルや旅館が増えています。有給取得については「上司や周りが休まないと、自分だけでは取りにくい」という声が少なくありません。
その点、施設自体を休みにすることでスタッフ全員が無理なく休暇を取れます。また、休業日に各設備の点検を行ったり、閑散期の水道光熱費を削減できたりなどのメリットもあります。
一時的に売上は減少するものの、既存スタッフのモチベーションアップや次年度の新卒の応募者が増えるなど、良い効果が表れているようです。
全館休館日を設ける以外にも、従業員のマルチタスク化や有給休暇の取得促進といった経営改革が進められています。具体的な成功事例を見てみましょう。
お互いの業務をカバーしあう体制
働き方改革の成功には、スタッフのマルチタスク化が必要だと解説しましたが、ある宿泊施設では事務職の従業員が、繁忙期には接客業務をサポートする体制を作りました。
毎週金曜日にミーティングを開き、1週間の来客見込み数を確認した上で、事務職の協力が必要な場合はあらかじめ要請を出すのです。そうすることで、事務職の仕事もスケジュールを調整できるため、スムーズに連携を取ることができるのですね。
また、反対に接客担当が事務の仕事をサポートする、清掃係が下膳を手伝うなど、お互いの仕事をカバーしあうことが当たり前の雰囲気となり、作業時間のさらなる短縮化が図られているとのことです。
有給取得への取り組み
年次有給休暇の確実な取得は、違反すれば罰則が設けられている義務です。常に人手が必要な宿泊業界では、上手に回して取得させることを考えなければなりません。
確実に有給取得させるために、ある宿泊施設では1年の初めに、各自の希望に沿った6日間の有給休暇日を決める制度を設けました。この取り組みによって、従業員の有給取得意識が高まり、有給を取ることが習慣化されたそうです。
また、計画的付与制度を導入している宿泊施設もあります。計画的付与制度とは、5日間を超える分の有給休暇日数について労使協定を結び、企業が振り分けた日程で、有給休暇を取得させる制度のことです。
この制度を活用春休みや夏休み、誕生日休暇など設け、計画的に有給休暇を取得させることができますね。
参照:働き方改革の成功事例について/働き方・休み方改善ハンドブック(厚生労働省)
ホテル業界の働き方改革は従業員の意識も必要!
一億総活躍社会の実現に向けて、ますます働き方改革への意識が高まっています。ホテル業界には昔ながらの慣習が今もなお残っているところが多く、「働き方改革なんて、そう簡単にできないよ」との声が多く聞かれるのが実情です。
しかし、まだまだ改善の余地があるともいえ、ホテル業界には十分伸びしろがあるのです。
当記事では、働き方改革を成功させるためのいくつかのステップを紹介しました。どれも必要なことですが、何より重要なのは働いている人自身の意識改革かもしれません。
「ずっとこうだったんだから、続けるべき」「この仕事は自分以外には務まらない」どんな職場からも、多かれ少なかれこうした声は上がるでしょう。しかし改革には、時に強い意志と覚悟も必要になります。
自ホテルの未来のために、今すべきことは何かをよく考える。これがもっとも大事なことなのかもしれませんね。