観光業界で注目されている「DMO(観光地域づくり法人)」。耳にしたことはあるけれど、観光協会との違いがよくわからない、自分たち宿泊業者に関係があるのかピンと来ないと感じている方も多いのではないでしょうか。この記事では、DMOの基本的な役割や登録制度の概要、宿泊業者にとってのメリット、そして実際に関わる方法までを、わかりやすく丁寧に解説します。
DMO(観光地域づくり法人)とは?
「DMO(観光地域づくり法人)」という言葉を耳にする機会が増えていますが、観光協会との違いや目的がわかりにくいという声も少なくありません。
ここでは、DMOの基本と宿泊業とも関係の深い活動内容について、わかりやすく解説します。
DMOの基本的な定義と役割
DMO(観光地域づくり法人)は、地域の観光資源を活かしながら、持続可能な観光地域を育てていくことを目的に設立された法人です。
DMOとは「Destination Management / Marketing Organization」の略で、日本語では「観光地域づくり法人」と訳されます。
観光庁では、DMOの主な役割として「地域内・地域間における調査や調整機能の発揮」を掲げています。
そのため、地域の関係者同士が同じ方向を向いて観光地域づくりを進めるための調整役としての機能が期待されています。
観光地域マネジメントにおける具体的な活動
DMOが実際に行っている観光地域マネジメントの活動は、大きく分けて次の4つに分類されます。観光庁が示す基礎的な役割・機能に基づいて、それぞれを見ていきましょう。
1.合意形成と調整機能の発揮
地域の観光を1つの方向に進めるには、宿泊業者、交通事業者、自治体、住民など多様な関係者の合意形成が欠かせません。DMOはその中心となって調整役を担います。
2.データ分析と戦略づくり
各種データをもとに地域の現状を分析し、「何を目指すか」を数値で定め(KPI)、その達成度を見ながら計画→実行→振り返り→改善というサイクル(PDCA)を継続的に回していくのも、DMOの重要な仕事です。
3.観光資源の磨き上げと受入環境の整備
「地域の魅力」をさらに高めるために、既存の観光資源に手を加えたり、多言語対応・交通整備をしたりするなど、観光客を迎える環境づくりもDMOの重要な役割です。
4.関係者との連携による一体的なプロモーション
地域内の観光関連事業と整合性を持った広報・PRを展開することで、バラバラだった情報発信を戦略的に統一し、効果的なプロモーションを実現します。
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DMOと観光協会の違いは?目的や役割をわかりやすく解説
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DMOと観光協会は、どちらも地域の観光を支える組織ですが、その目的や役割には明確な違いがあります。
ここでは、違いをわかりやすく整理したうえで、両者がどのように関わっているかの実例も紹介します。
目的・役割・機能の具体的な違い
一般的に、観光協会は観光客の受け入れを支援する「実務型の組織」として、観光案内所の運営、施設管理、イベントの実施など、現場に根ざした観光サービスを提供してきました。
たとえば、札幌市の観光協会では「北海道さっぽろ観光案内所」や「羊ヶ丘展望台」の運営を担っており、市民や観光客の声を観光振興に生かす取り組みが続けられています。
一方で、DMOは地域の観光資源やデータを活用しながら、観光地としての価値を高める戦略を策定・推進する組織です。
地域の課題を分析し、目指す方向性を明確にする「観光地経営の司令塔」として、さまざまな関係者との調整や中長期的な観光計画の実行を担っています。
宿泊業をはじめとした地域事業者も、DMOの活動に関わることで、自分たちの宿泊施設だけでは難しい広域的な戦略やプロモーションの恩恵を受けることができます。
DMOと観光協会が連携する実例と関係性
DMOと観光協会は、役割が異なるとはいえ、地域の観光を支えるために連携して活動するケースが全国で増えています。
埼玉県川越市では、「DMO川越」が中心となって観光戦略を策定していますが、その活動には観光協会も深く関わっています。
たとえば、DMOはスマートフォンの位置情報などのデータをもとに、観光客の動向を分析し、どの地域にどんなニーズがあるかを可視化。
その分析結果を活かして、観光協会が現場でのイベント運営や案内所での情報提供、地域ツアーの実施などを担っています。
このように、DMOが観光の設計図を描き、観光協会がそれを現場で実行するというかたちで、戦略と実務をうまく分担しながら連携しているのです。
宿泊業者にとっても、DMOと観光協会のどちらかを選ぶのではなく、地域全体の観光づくりの中に自分の立ち位置を見つけていくことが大切になってきます。
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DMOに関わるには?登録方法と参加のしかた
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DMOという言葉は知っていても、「具体的にどうすれば関われるのか」「自分の施設と何か接点があるのか」といった疑問を持つ方も多いのではないでしょうか。
ここでは、DMOに法人として登録する方法と、すでにあるDMOと宿泊業者がどのように関われるかについて、それぞれわかりやすく紹介します。
【登録要件】観光庁が求める5つの基準
観光庁が「登録DMO」として認めるためには、以下の5つの要件すべてを満たしている必要があります。
- 関係者の合意形成:地域の多様な関係者(自治体・観光協会・事業者など)と連携し、DMOが中心となって観光地域づくりを進める体制があること
- データに基づく戦略設計と改善の仕組み:継続的なデータ収集・分析を行い、明確なコンセプトに基づいて観光戦略(ブランディング)を策定し、KPIの設定やPDCAサイクルによって進捗管理を行う体制があること
- 調整・実行機能の整備:観光関連事業との整合を図るための仕組みや、地域内での役割分担、広報・プロモーションを推進する実行力があること
- 明確な組織体制:法人格を有し、最終的な責任者が明示されていること。必要に応じてCMO(最高マーケティング責任者)やCFO(財務責任者)の設置も求められる
- 安定した運営資金の確保:持続可能な事業運営が可能であることを示す、資金面での裏付けがあること
【登録までの流れ】候補DMO→登録DMOのステップ
DMOとして国に正式に登録されるには、「候補DMO」としての段階を経て、すべての要件を満たしたうえで「登録DMO」として認定されなければなりません。
ここでは、観光庁が定める登録制度に基づき、申請から登録までの具体的な流れを4つのステップでわかりやすく整理します。
1.候補DMOとしての登録申請
一定の要件を満たし、今後の成長が見込まれる法人が「観光地域づくり法人形成・確立計画」を作成し、観光庁に提出。認められれば「候補DMO」として登録されます。
2.活動・自己点検・報告
候補DMOとして登録後は、少なくとも年1回、取組に関する自己点検と報告を行います。活動状況は観光庁のWebサイトで公表されます。
3.3年以内に「登録DMO」への昇格申請
候補DMOは、3年以内にすべての登録要件を満たし、「登録DMO」としての認定申請を行う必要があります。審査では、事業報告書・自己点検の内容・ヒアリングなどをもとに、登録基準の達成度が確認されます。
4.登録DMOとして認定/3年ごとの更新
登録DMOとなったあとも、活動内容の公表・自己点検・定期報告は継続的に求められます。登録は3年ごとの更新制です。
地域のDMOと宿泊業者が関わる方法
DMOは地域の観光事業者と一緒に取り組むために、地域内の宿泊業者や飲食店との連携を前提とした開かれた組織です。
ここでは、DMOと宿泊業者が連携できる具体的な方法を紹介します。
DMOが主催するセミナー・意見交換会に参加する
多くのDMOは、地域事業者を対象にした勉強会や観光戦略の説明会、ワークショップなどを定期的に開催しています。
まずはこうした場に参加して、地域がどんな観光戦略を描いているのかを知ることが第一歩になります。
宿泊と地域資源を組み合わせた観光商品づくりに協力する
DMOは、宿泊・体験・食などを組み合わせた着地型旅行商品の造成を行うことがあります。
自分たちの宿泊施設が地域のコンテンツのひとつとして組み込まれることで、従来の集客とは違ったルートで新たな顧客層にアプローチできる可能性があります。
宿泊データの提供や観光プロモーションへの協力
DMOは観光動向を分析するために、宿泊実績や訪問者属性のデータを必要とします。
自分たちの宿泊施設のデータ提供に協力したり、DMOが行う広報活動(パンフレットやWebサイトなど)に掲載してもらったりすることで、地域全体のプロモーションに参加することもできます。
宿泊業者にとってのDMO活用メリット5選
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DMOの存在意義はわかってきたけれど、関わることで施設にどんなメリットがあるのかと疑問に感じる方も多いかもしれません。
ここでは、地域の宿泊業者にとってDMOと連携することで得られる主なメリットを紹介します。
地域プロモーションによる認知度向上
DMOは地域全体のブランディングや広報を担っています。
施設単体では届きにくい広域メディアや海外向けキャンペーンにも、DMOを通じて参加できる可能性があります。
Webサイト・SNS・パンフレットへの掲載など、地域の看板と一緒に発信されることで認知の広がりが期待できるでしょう。
受入環境整備による顧客満足度アップ
多言語対応や交通案内の改善など、宿泊施設が個別には手を出しにくい地域全体での受入れ強化も、DMOが主導して行うことがあります。
宿泊客が地域全体で「快適だった」と感じることは、個々の施設への評価にもつながるでしょう。
データ・KPI活用による経営判断の強化
DMOが収集する宿泊実績や訪問者属性などのデータを通じて、自宿の状況を客観的に把握できるようになります。
また、地域の目標(KPI)と合わせて考えることで、戦略的に価格設定やサービス改善ができるヒントも得られる可能性があります。
非常時対応における安心感の確保
災害時や感染症拡大時には、DMOが自治体や観光関連団体と連携して、外国人観光客への情報発信や受入れ対応の調整を行います。
宿泊施設にとっても、情報が集約されて発信されることで、慌てずに動ける安心感があります。
地域全体との連携によるブランディング効果
「〇〇温泉郷」「△△観光圏」など、地域全体のブランドが確立されることで、その一部である宿泊施設も自然と価値が引き上げられることがあります。
DMOの戦略に参画することで、単体の施設から地域ブランドの一員へと位置づけが変わっていくでしょう。
DMOと連携して成果を上げた宿泊施設の事例紹介
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ここでは、DMOと連携して成果を上げた宿泊施設の事例を紹介します。
北海道ニセコ町
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世界的スキーリゾートとして知られるニセコ町では、宿泊業と地域が連携し、国際リゾートとしての受入体制や体験価値の向上に取り組んでいます。
宿泊業と連携した主な取り組み
- 観光・交通情報を非接触で案内できる多言語対応のAIチャットボットを導入
- 地元食材と宿泊を組み合わせた「Niseko Autumn Food Festival」を開催
- 地域の飲食店を紹介するガイド冊子「Wine & Dine」を配布
- 英語マップ・Wi-Fi・キャッシュレス対応で外国人向けの受入環境を整備
宿泊施設の魅力が地域全体の体験価値として伝わるよう、DMOが受入体制と発信力を支えています。
岩手県八幡平市
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四季を通じて自然・温泉・アクティビティが楽しめる八幡平市は、安比高原を中心に通年で滞在できる観光地として整備が進んでいます。
宿泊業と連携した主な取り組み
- 飲食店と宿をつなぐ複合施設を整備し、泊食分離に対応
- ガイド・スキー場・宿が連携してバックカントリーの安全管理体制を構築
- 地域資源を活かした企業研修やワーケーションの受入を促進
宿泊業者と地域が持続的に連携できるよう、DMOが仕組みづくりと関係構築を支えています。
京都府(お茶の京都エリア)
宇治市・和束町・南山城村などを含む「お茶の京都」エリアでは、地域資源を活かした着地型観光を進め、宿泊施設と連携しながら、滞在時間と体験価値の向上を図る取り組みが行われています。
宿泊業と連携した主な取り組み
- 地域の体験・文化と宿泊を組み合わせた着地型商品を造成
- 宿泊客の滞在時間を延ばす観光ルート・イベントを開発
- ナイトタイムの観光需要創出に向けた取り組みを推進
- 地域一体での受入体制整備と宿泊施設への情報提供を実施
宿泊施設が地域の日常と観光をつなぐ拠点となるよう、DMOが体験商品と連携体制を整えています。
出典:観光地域づくり法人(DMO)とは/観光庁出典:観光地域づくり法人の登録/観光庁出典:観光地域づくり事例集/観光庁出典:お茶の京都DMO 観光地域づくり戦略/お茶の京都 DMO
まずは地元の観光DMOを調べよう!宿泊業も観光地域づくりに参加できる
「DMO」と聞くと、大きな組織や行政向けの話に感じるかもしれません。
しかし、実際には地域の宿泊業者や観光関係者が積極的に関わり、観光地の未来を一緒につくっていくパートナーとして期待されています。
まずは、ご自身の旅館やホテルがあるエリアにどんなDMOがあるのかを調べてみましょう。
観光庁のWebサイトでは、全国の登録DMO一覧が公開されていますし、多くのDMOではセミナーや情報共有の場が設けられています。
「地域の観光をもっとよくしたい」と思っている宿泊業者だからこそ、DMOとつながることで、今までにない視点やチャンスが見えてくるかもしれません。
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