育成就労制度は、人材確保と人材育成を目的とした新たな外国人材受け入れ制度です。技能実習制度に代わる新しい仕組みとして、2027年までに完全移行が予定されています。転籍が一定条件で認められるほか、育成就労計画の作成が求められるなど、これまでの制度とは大きく異なる点が特徴です。この記事では、技能実習制度や特定技能制度との違いを整理しながら、宿泊業界で育成就労制度を活用する際のポイントや注意点をわかりやすく解説します。
育成就労制度とは
育成就労制度は、現行の技能実習制度を廃止し、新たに創設される予定の外国人材の受け入れ制度です。
「人材確保」と「人材育成」の両立を目的とし、段階的なスキル習得や労働者の権利保護に重点が置かれています。
ここでは、宿泊業界の採用担当者にとっての変化や、制度の全体像、そして創設の背景についてわかりやすく解説します。
宿泊業界の採用担当者にとって、何が変わる?
技能実習制度が育成就労制度に移行することで、宿泊業界の採用担当者にとって「採用の目的」や「受け入れ体制」に関する考え方が大きく変わります。主な違いは以下のとおりです。
目的が「人材育成」に明確化される
これまでの技能実習制度は、国際貢献(技能移転)を目的とするものとされていましたが、実際には人手不足を補う手段として活用されるケースが多く、制度の理念と実態にギャップがあると指摘されてきました。
育成就労制度では、企業による段階的な人材育成が明確な目的とされており、教育・育成体制の整備が不可欠となります。
転籍(転職)が条件付きで可能に
技能実習制度では原則として転籍が認められておらず、たとえばパワハラや長時間労働といった問題があっても、実習先を変えることが難しいという課題がありました。
育成就労制度では、こうした状況に対応するため、一定の条件下での転籍が認められる見込みです。
これにより、外国人材の人権が守られやすくなる一方で、企業にはよりよい職場環境の整備が求められます。
育成就労計画の策定が必須になる
育成就労制度では、外国人材ごとにスキルの習得内容や育成方法をまとめた育成就労計画を作成することが義務づけられます。
たとえば「1年目は基本業務の習得、2年目は応用・後輩指導」など、段階的に成長させるための設計図として活用されます。
そのため、受け入れ企業には、どのように働いてもらうかだけでなく、どう育てていくかを見据えた体制づくりが求められるのが特徴です。
宿泊業界も対象職種に含まれる見込み
育成就労制度では、現行の技能実習制度と同様に、宿泊業界が対象職種に含まれる方向で検討が進められています。
そのため、外国人材の受け入れを続けたい宿泊業界の企業にとっても、制度を引き継いで活用できる可能性は高いでしょう。
ただし、今後は人材を雇うだけでなく、育てながら活かすという視点が必要になるため、これまでの運用スタイルを見直すきっかけとして制度移行を捉えることが大切です。
育成就労制度が新たに創設された背景
育成就労制度は、現行の技能実習制度が抱える課題を受けて創設される新たな制度です。
そもそも技能実習制度は、人材育成を通じた国際貢献を制度目的とし、労働力の需給調整の手段として使われることは想定されていませんでした。
しかし実際には、多くの実習生が国内の企業における労働力として活用されており、制度の目的と運用実態にかい離があることが指摘されてきました。
こうした実態を受け、有識者会議の中間報告では、制度を抜本的に見直し、人材育成と人材確保を明確な目的とする新たな制度の創設が必要と提言されました。
その後の議論でも方向性に大きな異論はなく、「育成就労制度」という名称にも概ね賛同が得られたことから、2023年11月に正式に提言がまとめられました。2027年までに段階的な制度移行が予定されています。
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【育成就労制度】技能実習制度や特定技能制度との違い
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育成就労制度の位置づけや特徴を理解するためには、既存の制度との違いを整理しておくことが重要です。ここでは、技能実習制度・特定技能制度・育成就労制度を比較していきます。
制度ごとの目的と役割
現在は技能実習制度が運用されていますが、今後は育成就労制度への移行が予定されています。
制度の目的や背景を比較することで、それぞれの制度の違いと特徴が見えてきます。
制度 | 主な目的 | 制度の役割・背景 |
---|---|---|
技能実習制度 | 国際貢献(技能移転) | 発展途上国への技術移転を目的とするが、労働力供給手段として使われていた側面あり |
特定技能制度 | 即戦力となる外国人の受け入れ | 労働力不足の解消が主目的。技能試験・日本語能力試験を課す |
育成就労制度 | 人材確保と人材育成の両立 | 企業が計画的に育成する前提の制度。より実態に即した形での受け入れが可能に |
制度の目的や背景を比較することで、育成就労制度がどのような役割を担うのかがより明確になります。
特に、企業が計画的に人材を育てる仕組みが制度の中心にある点は、従来制度と大きく異なる特徴です。
在留期間・転籍可否・試験/認定・所属機関の責任範囲などの違い
制度の目的だけでなく、在留期間や転籍の可否、試験の有無など、実務に関わる条件も異なります。
以下の表で、技能実習制度・特定技能制度・育成就労制度の主な違いを確認しておきましょう。
項目 | 技能実習制度 | 特定技能制度 | 育成就労制度(予定) |
---|---|---|---|
在留期間 | 原則3〜5年 | 1号:最長5年 2号:制限なし |
原則3年、一定条件で最長5年 |
転籍可否 | 原則不可(例外あり) | 原則可 | 一定の条件下で可能 |
試験/認定 | 技能検定等あり | 技能・日本語試験あり | 試験不要(育成計画に基づく進捗評価) |
所属機関の責任範囲 | 技能指導・生活指導 | 支援計画に基づく支援(支援機関可) | 育成計画に基づく教育・生活支援が必須 |
各制度の在留条件や企業側の責任には大きな違いがあります。
育成就労制度では、育成計画の作成や支援体制の整備が求められるなど、企業の関与がより深くなる点が特徴です。
制度の仕組みを正しく理解しておくことが、今後の制度移行に備えるうえでも重要です。
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育成就労制度の対象となる職種・業種
育成就労制度で受け入れ可能となる職種・業種は、現行の技能実習制度を踏まえつつ、制度の目的に沿って見直される予定です。
宿泊業界も含め、どのような職種が対象となるのかを把握しておくことで、今後の準備や検討がしやすくなります。
対象となる職種・業種の概要
育成就労制度の対象職種・業種は、現行の技能実習制度で受け入れが認められている分野を基本としつつ、制度目的に即した形で見直しが行われる方針です。
技能実習制度と同様に、製造業・建設業・農業・介護・宿泊など、一定の現場スキルを必要とする分野が中心となると見込まれています。
ただし、育成就労制度では人材育成が明確な制度目的とされているため、単純作業中心の業務よりも、スキルの習得が見込める職務内容が重視される可能性があります。
ホテルや旅館などの宿泊業界で受け入れが可能な職種のイメージ
宿泊業界では、技能実習制度においてフロント業務を含む幅広い職種で、また特定技能制度においてはフロントや接客・客室係、調理、レストランサービスなどの業務で外国人材の受け入れが行われてきました。
育成就労制度においても、上記制度の職種を参考にしつつ、現場で段階的なスキル習得が可能とされる業務が対象になると考えられます。
たとえば、接客対応の基礎から始まり、言語スキルやマナー習得、後輩指導といったステップが見込める業務は、育成計画の立案がしやすく、制度の趣旨にも合致しやすいといえるでしょう。
育成就労制度の対象職種は今後変わる可能性も
育成就労制度は、2027年の施行に向けて現在も制度設計が進められています。
そのため、対象となる職種や業種については、今後見直しや変更が行われる可能性があります。
受け入れを検討する企業としては、現時点での情報だけに頼るのではなく、制度の最新動向を定期的に確認しながら、柔軟に対応できる準備を進めておくことが大切です。
宿泊業界で育成就労制度を活用するには
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宿泊業界でも人手不足が続く中、育成就労制度は中長期的に外国人材を育てながら戦力化できる仕組みとして注目されています。
ここでは、育成就労制度を宿泊業で活用する際のメリットや、具体的な職種ごとの活用シーンを紹介します。
育成就労制度を活用するメリット
育成就労制度は、「外国人材を受け入れる」だけでなく、「育てながら戦力化していく」ことを前提とした制度です。
企業にとっては、即戦力ではなく育成前提で採用できることで、長期的・計画的な人材確保につながるというメリットがあります。
また、一定の条件下で転籍が認められる仕組みにより、労働者にとっても安心して働ける環境が整いやすくなり、企業側にも職場環境の改善や育成体制の強化が促されるといった相乗効果が期待できます。
結果として、外国人材の定着率向上や、企業全体の教育力向上にもつながる可能性があります。
宿泊業界での具体的な活用シーン
宿泊業界では、フロント、客室清掃、レストランサービスなど、段階的にスキルアップできる業務が多く、育成就労制度と相性のよい職種がそろっています。
ここでは、それぞれの職種でどのように制度を活かせるか、具体的なシーンを確認しておきましょう。
フロントの場合
フロント業務は、接客・案内・予約対応など、コミュニケーション力と状況判断力が求められる職種です。
育成就労制度では、まずはチェックイン補助や荷物運搬、館内案内などの基本的な接客業務から始め、徐々に電話応対や予約管理、トラブル対応など、より高度な業務へと段階的にスキルアップしていく流れが考えられます。
外国籍スタッフがフロントに立つことで、多言語対応力の強化やインバウンド対応の質の向上にもつながる可能性があります。
客室清掃の場合
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客室清掃は、作業手順が明確で習熟度によって成果が見えやすく、育成計画を立てやすい職種のひとつです。
清掃補助やベッドメイキングからスタートし、慣れてきたら単独清掃、インスペクション(清掃後の確認)、さらに新人指導補助など、経験に応じた段階的な育成ステップを組むことができます。
品質やスピードに対する評価基準も設定しやすく、職場全体の作業効率やモチベーションの向上にもつながるかもしれません。
また、多国籍な宿泊客に対して文化的配慮のある対応ができることや、細やかな気配りを活かした清掃が期待できる点も、外国籍スタッフならではの強みです。
レストラン・料飲サービスの場合
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レストランや料飲サービスでは、接客マナー、配膳のスキル、衛生管理など、多様なスキルが求められる業務が含まれます。
育成就労制度を活用することで、テーブルの片付けや準備などの補助的な作業からスタートし、徐々にオーダー受け、料理説明、外国語対応、最終的にはチームリーダー補助など、段階的にレベルアップさせる育成計画が可能です。
特に外国籍のお客様が多い施設では、語学力や異文化理解力を活かした対応にも期待できるでしょう。
育成就労制度を活用するために必要な準備と注意点
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将来的に育成就労制度を活用するには、計画的な準備と制度の理解が欠かせません。
ここでは、実際に制度を導入するために企業側で必要となる準備や手続き、支援の活用について整理します。
育成就労外国人ごとに必要な育成就労計画を作成する
育成就労制度では、外国籍スタッフごとに「育成就労計画」を作成し、外国人育成就労機構による認定を受けることが必要です。
この計画には、次のような内容を明記することが求められます。
- 育成就労の期間(原則3年以内)
- 育成の目標(業務の習得レベル、技能の向上、日本語能力の向上など)
- 具体的な育成内容(指導方法、評価方法、フォロー体制など)
計画は単なる書類作成ではなく、制度の根幹をなす実践的なツールです。
そのため、業務の流れや人材育成の考え方をあらかじめ整理しておくことが、認定取得のためにもスムーズな制度運用のためにも重要です。
教育・指導体制を整える
育成就労計画を実行するには、現場での教育・指導体制が整っていることが前提です。
担当指導者の配置や、OJTの仕組み、評価のフィードバック方法などを事前に整備しておく必要があります。
また、言語や文化の違いに配慮したコミュニケーション体制やサポート制度の導入も定着支援に効果的です。
新人スタッフの育成と同様に、「受け入れる側の体制づくり」が重要な準備のひとつです。
制度の最新情報を確認し、変化に備える
育成就労制度は、2027年の施行に向けて現在も詳細が検討中であり、職種や要件の見直しが行われる可能性があります。
制度の詳細が固まり次第、今後は関係省庁による説明会の開催や、業界団体による実務ガイドラインの公表も進められていくと見込まれます。
現段階では公的資料や最新の報道、行政の公式発表などをもとに情報収集を行い、制度の動向に注目しておくことが重要です。
育成就労制度を活用するための手続きの流れ
現時点では制度の詳細な運用規則は確定していませんが、技能実習制度や特定技能制度を参考にすると、育成就労制度の活用には次のような流れが想定されます。
- 社内準備・方針の決定(受け入れ目的、対象職種、育成方針などを整理)
- 育成就労計画の作成(外国籍スタッフごとに個別計画を策定)
- 申請書類の準備・提出(行政(出入国在留管理庁など)に必要書類を提出)
- 在留資格認定→入国手続き(認定証交付後、現地でのVISA取得・入国)
- 受け入れ開始・育成の実施(計画に基づいて教育・業務スタート、進捗管理)
- 定期的な評価・報告(育成計画の実行状況を記録し、必要に応じて見直し)
このように、準備段階から育成・管理・報告まで、一連の流れを見越した体制づくりが求められます。
自社対応か、外部支援を活用すべきか
育成就労制度の対応には一定の制度理解と事務処理負担が伴うため、すべてを自社で対応するのが難しいケースも想定されます。
その場合、登録支援機関や行政書士・社労士などの専門家と連携することも選択肢のひとつです。
外部支援機関の活用により、書類作成・入管対応・日常支援の一部を委託でき、人手不足の企業でも制度を安定して運用しやすくなります。
コストや支援内容を事前に比較し、自社の体制に合った支援の活用を検討しましょう。
出典:育成就労制度の概要/厚生労働省出典:技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 最終報告書/法務省出典:「技能実習制度」が「育成就労制度」に変わります/公益財団法人国際人材育成機構
育成就労制度は人材確保と人材育成を目的とした新たな外国人材受け入れ制度
育成就労制度は、技能実習制度の課題をふまえて設計された、人材確保と人材育成の両立を目指す新たな外国籍スタッフ受け入れ制度です。
即戦力としての採用ではなく、段階的に育成することを前提としているため、企業にも計画性や育成体制の整備が求められます。
宿泊業界においても、人手不足が慢性化する中で、外国籍スタッフの中長期的な育成と定着は重要なテーマです。
育成就労制度を理解し、準備を整えておくことで、将来の採用戦略における選択肢を広げることができるでしょう。
なお、おもてなしHRでは、外国籍人材の採用を見据えた求人掲載にも対応しています。制度導入に備えて、今できる採用から一歩を踏み出してみませんか。
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