「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」とは?
インバウンドの地方での長期滞在や消費拡大を図るコンテンツとして「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」が注目を浴びています。
この事業は観光庁による補助金制度で、2020年度にスタートしました。スノーリゾートを形成・整備する計画を地域単位で募集し、各地域の観光資源を最大限に活用したプロジェクトであると採択した場合に補助金を支給するというものです。
まずは、この事業が発足した背景や目的について理解を深めていきましょう。
「国際競争力の補助高いスノーリゾート形成促進事業」の背景
日本のスキー産業は、かつては世界的な人気を誇っていました。しかし近年では、少子高齢化の進行により国内のスキー人口が減少したり、温暖化などによる雪不足の懸念があったりして、国内のスノーリゾートの来場者数は減少しています。
また、ヨーロッパや北米のスキーリゾートで設備投資の強化やサービスの多様化が行われ、国際的な競争が激化したことで、日本のスキーリゾートの競争力は低下しつつあります。
これを受けて、地域経済の活性化と観光業の振興を図るため、政府は、スノーリゾートの再生に向けた取り組みを2020年度から開始したのです。
「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の目的
「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の最も大きな目的は、日本国内のスノーリゾートを活性化し、インバウンドの誘致を図ることにあります。
観光庁は、この事業を通じてスキー場や周辺施設の整備・改善を支援し、国際競争力の高い魅力的なスノーリゾートの形成を目指しています。
具体的な目的は、以下のようなものです。
【地域経済の活性化】
冬季観光が拡大すれば、地域経済の活性化につながります。スノーリゾート地に観光客を呼び込み、宿泊施設や飲食店、土産物店など地域のさまざまな産業に経済的な波及効果をもたらすことを目指しています。
【観光資源の有効活用】
自然環境や文化、歴史などの地域固有の観光資源をいかしたリゾート開発を促進し、地域の魅力を高めることを目指しています。スノーリゾートを通じて地域のブランド力を向上させ、国内外からの観光客誘致を図ることも目的の1つです。
【インフラの整備】
交通アクセスや宿泊施設、飲食店地域など、スノーリゾートに関わるインフラの整備をすすめることで、地域全体の生活環境や観光環境の向上を図る
【持続可能な観光開発】
環境保護と経済活動のバランスを取った持続可能な観光開発の促進を目指しています。地域の自然観光を保護しつつ、観光客に魅力的な体験を提供することも重要です。
ほかに、地域コミュニティの強化や地域ブラントの確立なども、この事業が目指していることです。
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国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業の概要
ここからは、観光庁による「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の概要について詳しく解説します。
補助対象と補助率
政府による補助の対象になるのは、観光地域づくり法人(DMO)、観光関連協議会、その他の民間事業者です。
政府は毎年2月〜3月の間に「国際競争力の高いスノーリゾート形成計画」を公募し、その中から目的達成の効果が見込まれる事業を選定します。
補助額は事業にかかる費用の半分で、補助額の上限は以下のようになっています。
- スキー場インフラの整備(ICゲートシステムの導入に係る経費):スキー場1カ所につき、1200万円
- スキー場インフラの整備(上記以外):個別事業計画1事業につき、3億円
インバウンド需要の取り込みにつながらない経費や圧雪車、スノーモービル等の購入費などは対象外です。
対象地域
この事業の対象地域は、既存のスノーリゾート地や、新たにスノーリゾートとしての開発が見込まれるエリアです。
特に、地域振興や観光業の発展が期待される地域が優先されます。
たとえば、令和6年度の支援対象地域は17地域ですが、都道府県で見ると北海道・岩手・山形・福島・群馬・新潟・長野・山梨の8つとなっており、いずれも雄大な自然と多くのスキー場を持つ地域ばかりです。
参考:「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」支援対象地域のお知らせ/観光庁
補助対象事業
補助の対象になる事業には、以下のようなものがあります。
- スキー場のリフト・ゴンドラの統廃合
- 新規エリアでの索道施設の増設等
- 多様な体験コンテンツの造成
- 外国人対応が可能なインストラクターの確保
- 二次交通の確保
- グリーンシーズンの誘客強化
過去の事例を見ると、施設の老朽化対策や新規設備の導入を支援することで安全性を向上させたり、多言語対応やWi-Fi整備、キャッシュレス対応などで利便性を向上させたりするなどがあります。
また、アクティビティを充実させて観光客が長期滞在できる環境を整備したり、夏季や秋季に観光客を誘致したりするなど、スキー以外の魅力を高めることも補助の対象に含まれています。
採択基準
スノーリゾート形成促進事業の対象地域に選ばれるには、以下のような基準があります。
- 地域の観光資源の豊富さ
- 事業計画の具体性
- 地域経済への貢献度
また、スキー場事業者や宿泊事業者、地方自治体・地域住民からの理解と協力が得られるかどうかも重要な要素となります。
ほかにも、すでにある程度のインバウンドが来訪していたり多様なアフタースキーの楽しみ方があったりなど、さまざまな要件を満たしていることが必要になる場合もあるようです。
採択事例
実際に採択された事業を事例としてみていきましょう。
- 雪上車を用いたバックカントリーのガイドツアーの実施
- 宿泊施設と近隣スキー場を結ぶ、GPS位置情報システムを搭載した無料シャトルバスの運行
- エリア内の飲食店を利用できるよう無料のナイトシャトルバスを運行
- スキー場を活用したマウンテンバイクコースを整備
- 多言語対応の自動発券機の導入や販売サイトの多言語対応・QR決済端末設置
- イルミネーションやかまくら体験などの体験型スノービレッジの造成
- 高機能な人工降雪機の導入
これらの取り組みによって、快適性への評価が向上したり、営業日数が延長できたり、来場者数が増加したりなどの効果が得られた地域もあるようです。
参考:国際競争力の高いスノーリゾート形成の促進に向けた検討委員会/観光庁
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「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の今後の展望
今後、「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」の規模を拡大し、より多くの地域が支援を受けられるようにすることが求められます。
日本のスノーリゾートが世界的な観光地としての地位を確立するためには、特に海外からの観光客誘致に注力する必要があります。
そのためには国際的なプロモーションや、外国人観光客向けのサービス充実が求められるでしょう。
中国を始めとしたアジア市場では、スキー・スノーボード人口が増えていると言われています。日本のパウダースノーへの関心を持つ外国人スキーヤーも多いようです。
これまでの取り組み事例の中には、海外のスノーリゾートの好事例を参考にしたものが多く見受けられます。日本のスノーリゾートが世界的な観光地としての地位を確立するためには、魅力的な事例を取り入れながらも、日本の魅力が伝わるプログラムの提供は欠かせないでしょう。
実際にこの取り組みにおいては、日本の文化や食が誘致の鍵になっている地域は少なくありません。国際競争力の高いスノーリゾートの形成においては「日本らしさ」が重要になりそうです。
「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」は地方にとってのチャンス
「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」は、インバウンドの長期滞在や消費拡大を図る上で、鍵となるコンテンツです。
この事業の特徴の1つに、補助対象となる地域の多くが都市部から大きく離れていることがあります。
インバウンドの誘致が難しいと言われる地方にとって、この事業はインバウンド需要を的確に取り込むチャンスになるでしょう。
これまで注目を浴びることが少なかった地方が、国際的な観光地としての地位を確立することができるかもしれませんね。