困難なホテルの人材確保、離職を防ぐにはどうすればいいか?
目次
ホテル業界で深刻な人手不足
現在、日本の社会全体で人手不足が起こっており、ホテル業界では特に深刻です。
東京オリンピック開催に向けてホテルの建設が増える一方、現在の人員数では対応しきれないことが予想されています。そのため、ホテル業界全体で、人材確保が大きな課題となっています。
人材確保ができない原因は何か
社会全体の中でも、突出して離職率が高いホテル業界。新規採用でおぎなうにしても、一人前に育つまでの時間や費用も余計に掛かってしまいます。
なぜ、採用してもすぐに辞めてしまう人が多いのか、まずは原因を探りましょう。
待遇面や福利厚生の満足度が低い
待遇面の満足度が低い職場に人材は定着しません。ホテル業界では学歴による待遇の差があるところが少なからず存在します。ホテルの専門学校を卒業し、必要な知識を身につけていても大卒に比べて待遇が悪く、専門学校の卒業者は契約社員からのスタートというホテルもあるそうです。
また、何年勤めても昇進できず、やりがいや目標を見失う契約社員や派遣社員も少なくありません。
福利厚生については、ホテル業界では保養所を設けているところが多いものの、仕事が忙しく、利用しにくいという不満の声も見受けられます。
ワークライフバランスが取れない
離職の理由でいちばん多く耳にするのはワークライフバランスが取れないということです。
ホテルは24時間、お客様にサービスを提供する場所です。そのため、シフト制の勤務が一般的で、夜勤や早朝のシフトもあります。バランスよく組まれているならともかく、慢性的な人手不足のホテルでは、夜勤終了後に数時間仮眠しただけで早朝シフトに入るということも珍しくありません。
また、定められている年間休日数が100日未満と少なく、連休も取れないとうホテルも多々あります。自分の時間が充分に確保できないと重労働によるストレスの発散も困難になります。そして、長くは続けられないと判断し、離職する人が多いのです。
古い日本企業の体質が残っている
働き方改革によって、プライベートを大幅に犠牲にしながら働くのが当たり前という日本企業の体質も変化を見せつつあります。しかし、ホテル業界は家族経営が多かった頃の名残なのか、いまだに滅私奉公の精神が求められることがあり、下記のような問題を抱えたホテルも少なくないそうです。
- ・サービス残業をせざるを得ない
- ・人手不足を補うため、時間勤務を強要される
- ・悪質なクレームから従業員を守るための対策が無い
- ・夜勤明けで疲れていても飲み会の誘いを断れない
どれも、昨今話題のブラック企業の体質に当てはまりますね。このような労働環境では良いサービスの提供は困難でしょう。
帆と出不足の問題については以下の記事でも解説しています。併せてご参照ください。
人材確保のための解決策は
人材確保ができなければ、ホテルはサービスを提供できなくなり、最終的には破綻してしまうでしょう。それを防ぐため、さまざまな対策を取るホテルが増えています。ここでは、人材確保のためのホテルの取り組みを紹介します。
AIやロボットの活用で人間の仕事を減らす
IT技術が発展し、人間の代わりに機械ができる仕事が増えました。ホテルの仕事では、チェックイン・チェックアウトやモーニングコールがすでに自動化されているところもあります。今後、機械に任せる仕事を増やし、従業員の負担を軽減することで離職を防ごうという取り組みがあります。
しかし、宿泊客は心のこもった人間によるおもてなしを求めています。高級ホテルになるほどその傾向が強く、業務の大多数を自動化すれば顧客満足度が低下してしまいます。AIやロボットの導入は、ある程度のところまでになりそうですね。
ワークライフバランスを考えた勤務体制にする
ワークライフバランスが取れていないと、従業員が心身を壊していしまいます。今、ホテル業界では勤務体制の見直しを進めるところが増えています。
例えば、閑散期に従業員が交代で休みをとれる制度を設けたり、「インターバル勤務」といって、退勤してから次の出勤まで最低何時間空ける、という決まりごとが導入されているところがあります。
また、残業時間に上限を設定したり、飲み会の予定やシフトの組み方について希望を考慮するという取り組みも増えています。かつて激務が当たり前といわれていたホテル業界でも、従業員の私生活を尊重する方向に変化しつつあるのですね。
学歴による格差を減らし、昇進の機会を増やす
ホテル業界では、学歴による雇用条件の格差を無くすため、学歴よりも仕事ぶりを公平に評価する動きが出てきています。
また、管理職を選出する際には、希望者に立候補させるホテルもあります。どのように仕事をしていきたいかを聞き、その意気込みもふまえて決めるのですね。
これまではホテル業界で出世を目指す場合、社内での昇進よりも転職での昇格を狙う人が多かったことも、人材確保が困難になる原因のひとつでした。昇進の機会を増やすことで、人材の定着が見込めます。雇用主にとっても従業員にとっても良いことですね。
就業研修を行う
北海道では、行政と旅行会社が協力し、宿泊施設や観光施設での就業研修が行われました。観光業が大きな収入源のひとつである北海道においても、人材確保は重要な課題です。人手不足を解消する施策として、観光業での就業希望者をホテルなどに派遣し、3ヵ月の就業研修が実施されました。
就業研修の期間中に、観光業全体の基礎知識を学び、実際の職場での実務研修も行います。この期間内は受け入れ先の企業からの支払いと、行政からの補助金で給与も支給されます。行政の目標は、研修終了後には参加者のうち7割を企業が正社員として採用してもらうことです。
観光業界を基礎から学ぶ研修のため、未経験者もチャレンジしやすい点が人材確保に繋がりそうですね。また、3ヵ月というある程度長い期間があるため、いざ就業してみたら業務内容が自分に合わず結局離職する、という事態の防止にも役立つのではないでしょうか。
ホテル業界で働く面白さとは
ホテル業界の労働環境は、良くなっていく過渡期にあると言えるでしょう。現状は苦労している人が多いことも事実です。しかし、その一方でホテル業界で働くことならではの面白さもあり、やりがいを持って取り組める仕事でもあるのです。
ここでは、ホテルの仕事の面白さをいくつか紹介します。
接客のプロフェッショナルを目指せる
ホテルには、受付やお会計、客室への案内など、一般的な接客業で行われている業務のほとんどがあります。究極の接客業とも言えるでしょう。日々、お客様に丁寧に向き合い、これらの業務をこなすことで「気持ちの良い接客」とはどのような接客なのか、身をもって理解できるのではないでしょうか。
また、日々の接客を通して、正しいマナーや美しい言葉遣いを身に着けることができます。これらは仕事のみならず、私生活でもとても役に立ちます。これも、ホテル業界で働く人ならではの強みです。
多種多様なお客様と触れ合える
ホテルには、国内外から老若男女問わずさまざまなお客様がいらっしゃいます。すごく年齢の離れたお客様や遠い異国からのお客様など、ホテルの仕事をしていなければ出会わなかったかもしれない人々と出会い、異文化交流することができるのです。
ベテランホテルスタッフの中には、多種多様なお客様との交流こそが仕事の醍醐味だという人もいます。すべてのお客様に満足を提供できるホテルスタッフを目指すためにも、さまざまなお客様との交流を大切にしたいですね。
お客様からの「ありがとう」
どの接客業でも、仕事によろこびを感じられるのは、お客様から「ありがとう」の一言をいただけた時ではないでしょうか。特にホテルは、滞在時間が長くお客様と接する場面も多々あります。
自分のひとつひとつの対応にご満足いただき、直接お礼の言葉やお手紙をいただけると、さらに頑張ろうという気持ちになれるものです。
たくさんの「ありがとう」いただきたい。そんな思いから、スピーディーな対応を心がける、周辺観光を詳しく案内できるように調べておくなど、自らのホスピタリティを高めるきっかけにもなります。
ホテルに限らず接客業での人は、ひとつでも多くの「ありがとう」をいただくことを目標にしてみてはいかがでしょうか。きっと何か積み上げられるものがあるはずです。
労働環境や待遇の改善などで人手不足を解消しよう
今回紹介した改善策を踏まえ、働きやすい環境を整えることで人手不足は解消される可能性があります。ホテル利用者数が増加している今、人手不足で利益のチャンスを逃がすことがないよう、従業員を大切にするホテルを目指しましょう。