地方創生2.0は、地域との新しい関わり方を目指す取り組みとして注目されています。人口減少や都市部への一極集中といった課題が深刻化する中で、地域の持続可能な発展に向けた重要な考え方のひとつです。宿泊業にとっても関わりの深いテーマですが、その内容をしっかり理解する機会は多くありません。この記事では、地方創生2.0の背景やポイントを整理し、宿泊業での活用のヒントをわかりやすく解説します。
地方創生2.0とは?
少子高齢化や人口減少が進む中で、地域の持続可能性が問われる時代を迎えています。こうした状況を受けて注目されているのが「地方創生2.0」という新しい考え方です。
従来の定住促進を中心とした「地方創生1.0」とは異なり、地域と多様に関わる人を増やすことに重きを置いているのが特徴です。
ここでは、地方創生2.0の概要や背景、そして宿泊業との関わりについて整理します。
地方創生1.0との違い
2014年にスタートした地方創生1.0では、「東京一極集中の是正」を掲げ、地方への移住促進や定住人口の拡大が主な目標とされてきました。
住宅支援や移住支援金などの制度を通じて、地方に住む人を増やすことが中心のアプローチでした。
一方、地方創生2.0では、単なる移住促進にとどまらず、地域と関わる人を増やす関係人口の創出・拡大が大きな柱となっています。
移住まではしなくても、地域と多様な形でつながる人を育て、共に地域の担い手になってもらうという発想です。
この変化は、宿泊業にとっても大きな意味を持ちます。宿泊施設は、地域外の人と地域をつなぐ接点として機能する場所です。
観光だけでなく、ワーケーションや地域体験などを通じて、関係人口を育てる拠点としての役割が期待されるようになっています。
なぜ今、地方創生2.0が必要なのか
地方創生2.0が求められる背景には、人口減少の加速や都市部への一極集中のリスクといった、従来の取り組みだけでは対応しきれない現実があります。
宿泊業においても、ここ数年の環境変化は大きな影響を与えています。たとえば、新型コロナウイルスの影響によるインバウンド需要の激減や、地域での人材確保の難しさなどが、経営に直接的な打撃をもたらしました。
外国人観光客に依存していた施設では、集客戦略の見直しを迫られ、地元人材の不足により営業体制が不安定になるケースも見られます。
こうした課題に対して、これまでのような「移住・定住促進」だけでは限界があります。
そこで求められるのが、地域と多様に関わる人を増やし、持続可能な形で関係を築いていくという、地方創生2.0のアプローチです。
宿泊施設は、地域外から訪れる人と地域をつなぐ重要な接点です。
観光だけでなく、地域体験やワーケーションなどを通じて、人と地域が出会い、継続的に関わり合える「交流拠点」としての役割が、これからますます重要になっていくでしょう。
宿泊業界に詳しいアドバイザーが、あなたに合う職場をいっしょにお探しします。
宿泊業界での職務経験はありますか?
地方創生2.0の基本的な考え方
kouki-k / stock.adobe.com
地方創生2.0では、これまでの取り組みをふまえながら、地域が持続的に成長していくための新しい考え方が提示されています。
単なる定住促進ではなく、関係人口の創出や多様な主体との協働を通じて、地域と外部がともに価値を生み出すことが重視されています。ここでは、その背景や方向性について整理しておきましょう。
これまでの取組の反省
地方創生1.0では、移住促進や定住人口の拡大が進められてきましたが、魅力的な仕事や暮らしの場づくりが伴わなかったことで、地域への定着は思うように進みませんでした。
また、人口減少の深刻さが十分に共有されず、地域全体として危機感や行動が広がりにくかったという側面もあります。
さらに、多様な関係者との連携も形式的なものにとどまり、実行力ある仕組みや、地域自らの主体性を育てる動きが十分とは言えませんでした。
こうした反省から、地方創生2.0では実践と共創を重視したアプローチへの転換が求められています。
地方創生をめぐる情勢の変化
2020年代に入って以降、地方を取り巻く環境は大きく変化しました。
人口減少と高齢化の進行により、労働力不足が深刻化し、宿泊業を含む多くの業種で担い手の確保が課題となっています。
さらに、賃金格差や無意識の思い込みなどが若者や女性の流出を招き、地域の活力低下にもつながっています。
実際に買い物、医療、教育など生活サービスの維持が困難な地域も増えており、住み続けるための基盤が揺らいでいるようです。
一方で、外国人観光客の地方志向や、リモートワーク・デジタル技術の進展など、地域にとって追い風となる変化も見られます。
都市部では得られない体験や価値が求められる今、地方の宿泊施設にとっては、新たなニーズに応えるチャンスといえるでしょう。
地方創生2.0を検討していく方向性
これからの地域づくりでは、人口や働き手が減っていくことを前提にしながらも、経済や暮らしを持続させる仕組みが求められています。
その実現には、人材育成と多様な主体の連携による、地域ぐるみの取り組みが必要です。
地方創生2.0では、この考え方を具体化するために、次の4つの視点(柱)から地域づくりの方向性が整理されています。
- 基本姿勢:人口減少を受け止めつつ、人を大切にし、成長可能な地域を目指す
- 社会:若者・女性が選びたくなる「楽しく暮らせる地方」をつくる
- 経済:地域資源を活かした高付加価値産業の創出と外部需要の取り込み
- 基盤・推進手法:デジタル・技術を活用し、連携と実行力を高める仕組みづくり
これらの視点は、人口減少や人材不足といった地域の課題に対応しながら、地域の力を引き出すための指針となるものです。
宿泊業も、地域の魅力を発信し、人と地域をつなぐ存在として、この流れの中で重要な役割を担っています。
ホテル&旅館業界の就職・転職についての記事
地方創生2.0の基本構想
JP-trip-landscape-DL / stock.adobe.com
地方創生2.0では、地域の将来像として「どのような地域を目指すのか」が具体的に示されています。
人が安心して暮らし、働き、関わり続けられる地域をつくるために、以下の5つの視点から取り組みの柱が整理されています。
安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
地方創生2.0では、誰もが安心して働き、暮らし続けられる地域づくりが重視されています。
その実現には、働きやすく、魅力を感じられる職場や働き方の整備、人材育成が欠かせません。
地域に「ここで働きたい」と思える場が増えることは、若者や女性にとっての選択肢を広げ、地域の魅力向上にもつながります。
宿泊業においても、地元人材の育成や職場環境の改善は、安定的なサービス提供と地域定着のカギになります。
また、高齢者を含めた誰もが安心して暮らせるよう、医療・福祉・交通など生活サービスの維持、地域コミュニティの継続も重要です。
加えて、自然災害の備えとして、地域全体での防災・危機管理体制の整備も進めていく必要があります。
東京一極集中のリスクに対応した人や企業の地方分散
HT / stock.adobe.com
東京圏への過度な集中を見直し、全国各地が持続的に機能する「分散型の国づくり」へと転換していくことが、地方創生2.0の重要なテーマです。
その実現に向けて、企業や大学、政府機関などの地方移転に取り組むとともに、地方への移住や企業の拠点展開、関係人口の拡大など、都市から地方への人の流れを促す動きが進められています。
宿泊業にとっても、ワーケーションや長期滞在ニーズの受け皿となることで、都市と地方の接点をつくる役割が期待されるのが特徴です。
地方に拠点を持つ企業との連携や、地域に根差した滞在スタイルの提案も、分散型社会の実現に貢献する可能性があります。
付加価値創出型の新しい地方経済の創生
buritora / stock.adobe.com
地方創生2.0では、地域の自然・文化・芸術などの資源を活かして、高付加価値な産業や事業を育てることが経済面の柱とされています。
農林水産業や観光業といった地域の基幹産業を、体験型・ストーリー性・デジタル連携などを通じて進化させ、地域に根ざした「選ばれる価値」を生み出すことが求められています。
また、内外からの投資や資金の流れを呼び込み、地方を起点とした経済の循環=エコシステムを形成することも重要です。
宿泊業にとっては、地域の魅力を体験として届ける場であり、農業・食・文化と連携した宿泊商品を通じて、地域経済の付加価値向上に直接貢献できる存在です。
デジタル・新技術の徹底活用
Imaging-L / stock.adobe.com
地方創生2.0では、デジタルや新技術の導入を通じて、生活の質や地域経済の活性化を図る取り組みが進められています。
オンライン診療やオンデマンド交通、ドローン配送など、地方での暮らしを便利にし、課題を解決するためのデジタルライフラインの整備が重視されています。
また、ブロックチェーンやDX(デジタルトランスフォーメーション)、GX(グリーントランスフォーメーション)といった技術も、産業の高度化や地域資源の活用に役立つ手段として位置づけられているのが特徴です。
こうした技術の活用を後押しするために、地方の実情に応じた規制緩和や制度改革も進められようとしています。
宿泊業においても、デジタル予約やキャッシュレス対応、多言語対応、地域体験との連携といったサービスの高度化は、地域の魅力発信と利便性向上に直結する要素です。
「産官学金労言」の連携など、国民的な機運の向上
ponta1414 / stock.adobe.com
地域の活性化には、行政(官)だけでなく、企業(産)、大学(学)、金融機関(金)、労働団体(労)、メディア(言)など、多様な主体が連携し、地域の課題に取り組むことが不可欠です。
地方創生2.0では、こうした関係者が知恵を出し合い、地域自らが考え、行動を起こせる土壌づくり=合意形成を促すことが重視されています。
また、都市と地方、地域内外での人材のシェアや交流を広げる仕組みづくりも、新たな視点として挙げられています。
宿泊業においても、地域のプレイヤーとして、地元企業や学校、自治体と連携し、体験型プログラムの提供やイベント協力などを通じて、地域づくりの一翼を担うことができそうです。
宿泊業で実践する地方創生2.0|全国の事例と取り組みから学ぶ
Daria-Nipot / stock.adobe.com
地方創生2.0では、「関係人口」や共創といった多様な地域との関わりが重視されています。宿泊業は、人と地域をつなぐ場として、その実践の中心となり得るでしょう。
全国には、商店街と一体になった分散型ホテルや、地元の文化体験を取り入れた宿など、すでに地方創生につながる実践を行っている施設もあります。
ここでは、そうした取り組みをタイプ別に紹介しながら、自分たちの施設で取り入れられるアイデアを見つけるヒントをお届けします。
地域の「日常」とつながる宿づくり「SEKAI HOTEL」
大阪府にある「SEKAI HOTEL」は、大阪・西九条の商店街を中心に展開する分散型ホテルです。
空き家や空き店舗をリノベーションし、宿泊施設だけでなく、銭湯や飲食店など地域の既存資源をそのままホテルの一部として活用しています。
宿泊客は地域の人と自然に関わりながら滞在を楽しめるため、観光地としてではなく生活のある地域としての魅力に触れることが可能。
こうした形で、宿泊業が地域の暮らしを活かし、関係人口の入り口をつくる取り組みが実現されています。
地域資源を活かした体験型価値の提供「星のや富士」
山梨県にある「星のや富士」は、富士山の麓でグランピングを軸とした高付加価値型リゾートを展開しています。
地元の自然や食材を活かし、森林ガイド付きのアクティビティや地産食材を使った料理など、五感で地域の魅力を体験できる工夫が満載です。
「泊まる」ことを超え、「ここで過ごす時間そのもの」に価値を見出すスタイルは、地域資源と宿泊サービスを融合させた先進的な取り組みといえます。
宿泊業が体験価値の提供者となる可能性を感じさせる事例です。
人と文化をつなぐ学びのある滞在「BED AND CRAFT」
富山県南砺市にある「BED AND CRAFT」は、地元の伝統工芸職人と連携し、宿泊客がワークショップを通じて職人と直接交流できる仕組みを取り入れています。
滞在そのものが「学びの時間」となるため、地域の技術や文化を深く知るきっかけになるでしょう。
観光として見るだけでなく、関わる・体験するというスタイルが実現されており、宿泊業が地域の文化継承や交流の場としての役割を担う実践的な取り組みです。
デジタルを活用した地域ガイドとしての役割「プリンス スマート イン 宮崎」
宮崎県にある「プリンス スマート イン 宮崎」では、デジタルサイネージシステム「FLOWMAP4D」を導入し、宿泊者がスマートフォンで持ち歩けるマップを提供しています。
このマップには、地元の方がおすすめするスポット情報などが掲載されており、宿泊者は地域の魅力を手軽に知れるようになりました。
これにより、地域と宿泊者をデジタルで繋ぎ、宿泊施設が地域ガイドとしての役割を果たしています。
出典:第1期の地方創生について/地方創生総合サイト出典:地方創生2.0の「基本的な考え方」概要/内閣官房出典:地方創生 2.0 の「基本的な考え方」/内閣官房
地方創生2.0の考え方と構想をもとに、宿泊業でできることからはじめよう
地方創生2.0は、地域と人との新しい関わり方を育てる取り組みです。
宿泊業はその接点となる立場として、地域と外から来る人々をつなぎ、さまざまな可能性を生み出すことができます。
すでに全国には、地域の文化や暮らしを取り入れた宿づくり、体験を通じた交流、デジタルを活用した発信など、さまざまな実践例があります。
すべてを一度に取り入れる必要はありません。まずは自館の特性や地域の強みを見つめ直し、できることからはじめることが、持続可能な地域との関係づくりへの第一歩となるはずです。
宿泊業だからこそできる地方創生のかたちを、一緒に育てていきましょう。
おもてなしHRでは、宿泊業の経営に役立つ情報を発信しています。詳しく知りたい方は、以下のボタンからご覧くださいね。
経営に役立つ情報はこちら