時短勤務で「残業するな」と言われる
時短勤務は、一般的な勤務時間と比べて短い時間で勤務する働き方です。時間が短い分、業務量や業務内容によっては、勤務時間内に全てを終わらせることが難しい場合があります。
そのため、残業が発生してしまうことも少なくありません。
「残業するな」という指示に納得がいかないこともあるでしょう。
ここでは、育児・介護休業法によって定められた「短時間勤務制度」と時短勤務の残業時間について、詳しく解説します。
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時短勤務とは
時短勤務とは、1日の勤務時間を短くする働き方のことです。
小さな子どもを育てていたり要介護状態の家族を介護していたりする従業員が希望した場合に、企業はその従業員の労働時間を短縮しなければならないとする制度に基づいています。
正式名称は「短時間勤務制度」で、育児・介護休業法という法律で所定労働時間や利用対象者が定められています。
育児・介護休業法は、労働者が子育て・介護と仕事を両立できるような支援をすることを目的とした法律で、「短時間勤務制度」は労働者が育児や家族の介護を行いやすくするための措置の1つです。
「短時間勤務制度」にはいくつかの定めがあります。
育児における時短勤務(短時間勤務制度)の定め
まずは、育児における短時間勤務制度の定めについて見ていきましょう。
事業主は、その雇用する労働者のうち、その三歳に満たない子を養育する労働者であって育児休業をしていないもの(一日の所定労働時間が短い労働者として厚生労働省令で定めるものを除く。)に関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づき所定労働時間を短縮することにより当該労働者が就業しつつ当該子を養育することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第一項第三号において「育児のための所定労働時間の短縮措置」という。)を講じなければならない。
対象者は、雇用期間が1年以上で、以下の条件を満たす男女の従業員です。
- 3歳未満の子を養育しており、短時間勤務をする期間に育児休業をしていないこと
- 1日の所定労働時間が6時間以下でないこと
- 日々雇用される従業員でないこと
- 労使協定により適用除外とされた従業員でないこと
介護における時短勤務(短時間勤務制度)の定め
また、介護の短時間勤務制度についての定めは以下の通りです。
事業主は、その雇用する労働者のうち、その要介護状態にある対象家族を介護する労働者であって介護休業をしていないものに関して、厚生労働省令で定めるところにより、労働者の申出に基づく連続する三年の期間以上の期間における所定労働時間の短縮その他の当該労働者が就業しつつその要介護状態にある対象家族を介護することを容易にするための措置(以下この条及び第二十四条第二項において「介護のための所定労働時間の短縮等の措置」という。)を講じなければならない。
事業主は、介護が必要な従業員に対する短時間勤務制度等の措置として、以下のいずれかを講じなければなりません。
- 短時間勤務制度
- フレックスタイム制度
- 始業・終業時刻の繰り上げ・繰り下げ(時差出勤の制度)
- 介護サービスを利用する場合、労働者が負担する費用を助成する制度その他これに準ずる制度
対象者は、雇用期間が1年以上で、要介護状態の家族を介護する日雇い労働者以外のすべての男女の従業員です。対象家族1人につき3年の間で2回以上利用できるようにしなければなりません。
時短勤務(短時間勤務制度)の目的
「短時間勤務制度」の主な目的の一つは、育児や介護が必要な従業員のワークライフバランスの向上です。
短時間勤務制度が策定される平成21年以前は、育児や介護に専念することを理由に、仕事を辞める選択をしなければならないケースが少なくありませんでした。
勤務時間を短くすることで家庭と仕事を両立できるようになれば、ストレスが軽減され、心身の健康が促進されます。仕事と私生活をバランスよく保つことができれば、生活の質は向上するでしょう。
また、制度を利用することで離職せずに働き続けることができたり、育児や介護が落ち着いた際にフルタイム勤務に戻れたりすることは、従業員にとって大きな安心材料です。
人材の確保という意味では、企業にとってもメリットが大きい制度と言えるでしょう。
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時短勤務の残業時間
短時間勤務制度について理解したところで、時短勤務における残業時間の扱いについても詳しく見ていきましょう。
育児・介護休業法では、育児・介護のための所定外労働の制限が定められています。
事業主は、三歳に満たない子を養育する労働者であって、当該事業主と当該労働者が雇用される事業所の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、その事業所の労働者の過半数で組織する労働組合がないときはその労働者の過半数を代表する者との書面による協定で、次に掲げる労働者のうちこの項本文の規定による請求をできないものとして定められた労働者に該当しない労働者が当該子を養育するために請求した場合においては、所定労働時間を超えて労働させてはならない。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない。
前条第一項から第三項まで及び第四項(第二号を除く。)の規定は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者について準用する。この場合において、同条第一項中「当該子を養育する」とあるのは「当該対象家族を介護する」と、同条第三項及び第四項第一号中「子」とあるのは「対象家族」と、「養育」とあるのは「介護」と読み替えるものとする。
事業主は、労働基準法第三十六条第一項の規定により同項に規定する労働時間(以下この条において単に「労働時間」という。)を延長することができる場合において、小学校就学の始期に達するまでの子を養育する労働者であって次の各号のいずれにも該当しないものが当該子を養育するために請求したときは、制限時間(一月について二十四時間、一年について百五十時間をいう。次項及び第十八条の二において同https://enno.jp/じ。)を超えて労働時間を延長してはならない。ただし、事業の正常な運営を妨げる場合は、この限りでない。
前条第一項、第二項、第三項及び第四項(第二号を除く。)の規定は、要介護状態にある対象家族を介護する労働者について準用する。この場合において、同条第一項中「当該子を養育する」とあるのは「当該対象家族を介護する」と、同条第三項及び第四項第一号中「子」とあるのは「対象家族」と、「養育」とあるのは「介護」と読み替えるものとする。
時短勤務をしている従業員からの請求があれば、企業の運営を妨げることがない限り、制限時間を超えた労働をさせてはいけないというのが、この法律の内容です。
請求がない場合は、時短勤務をしている従業員にも残業を命じることは可能となっています。
しかし、時短勤務は子育てや介護などの家庭の都合と仕事を両立させるために設けられたものです。頻繁に残業しているようなことがあれば、「残業するな」という指示があるのは当然かもしれません。
時短勤務で「残業するな」と言われる理由
「残業するな」という指示には、何かしらの意図があるはずです。時短勤務をしていて「残業するな」と言われるのはなぜなのでしょうか。考えられる理由について紹介します。
法令遵守のため
時短勤務における残業時間とは、所定労働時間(原則6時間)を超えて勤務した時間を指します。先述したとおり、残業時間の免除を請求した時短勤務の従業員に残業を命じることは違法です。
また、残業時間には労働基準法による定めがあります。時間外労働の上限は、原則として「月45時間・年360時間」です。当然、時短勤務をする従業員の残業もこの上限を超えることはできません。
企業は労働基準法などの法的規制を守る責任があります。従業員の権利を保護し、適切な労働環境を提供することは、企業の義務です。
法令遵守という観点から「残業するな」というのは、企業の対応として正しいものでしょう。
家庭の事情への配慮
「残業するな」という指示は、時短勤務を選択している従業員の、子育てや介護についての事情を理解しているからこその配慮である場合もあります。
残業することで子どものお迎えが遅くなったり、要介護者を1人にする時間が長くなったりすることがあっては、家庭生活に支障をきたす場合があります。
残業を制限するのは、時短勤務をする従業員の個別の事情を尊重し、家庭と仕事の両立を支援する姿勢を持っているからかもしれません。
効率化の促進
時短勤務に限らず、限られた時間内で効率的に業務を遂行する努力は必要です。
企業全体で残業時間の削減に取り組んでいる場合、効率的な働き方が求められます。
仕事の優先順位を明確にして無駄な作業を省いたり、業務プロセスを改善したりするなど、効率的な働き方を実現するのは、従業員の努めともいえるでしょう。
従業員一人ひとりが効率的に働くことへの意識を高めるために、「残業するな」という指示を出すことがあります。
コスト削減
「残業するな」と言われる背景には、企業のコスト削減の意図がある場合もあります。
残業時間が増えると、その分の人件費は増加します。人件費は、企業に必要な経費の中でも比較的大きな割合を占めるものです。そのため、残業時間を削減することで、コスト削減を目指すケースは多くあります。
限られたリソースを効率的に活用するために、残業を最小限に抑えたい場合は「残業するな」という指示があることが少なくありません。
時短勤務をしていて「残業するな」と言われたら
勤務時間が限られていることで、思うように仕事が進まないということはあるでしょう。業務量によっては、残業が発生してしまうこともあります。「早く帰らなければ……」と思っている中で「残業するな」と言われることに、さらに焦りを感じることもありそうです。時短勤務をしつつ残業を減らすためには、どのような対策をするとよいのでしょうか。
時間管理を徹底する
時短勤務をする場合は、時間管理は特に重要です。
まず、タスクの優先順位を明確にすることが必要です。毎日の始まりに、その日に達成すべき重要なタスクをリストアップして優先順位をつけることで、最も重要な業務から取り組むことができます。
また、より正確な時間管理のためには、時間管理ツールの活用が効果的です。
カレンダーツールなどを使って細かく1日のスケジュールを管理し、タスクの進捗を可視化しましょう。自分の時間をどのように使っているかを把握しやすくなり、無駄な時間を省くことができます。
ほかには、25分間集中して作業し、その後5分間休憩を取るというサイクルを繰り返す「ポモドーロ・テクニック」などの時間管理方法を取り入れるのも有効です。
業務の効率化を図る
短い勤務時間で成果を上げるためには、業務効率化が欠かせません。
まず、業務プロセスの見直しをしてみましょう。現在の業務フローを詳細に分析し、無駄な手順や重複する作業を見つけて改善することで、作業時間を短縮し、効率を高めることにつながるかもしれません。
業務中にメールをチェックする回数を決めて業務に集中できるようにしたり、ショートカット機能を活用してパソコン操作のスピードを早くしたりなど、小さな工夫の積み重ねでも業務効率化につながります。
また、時短勤務をしていると、退勤後に重要な情報共有が行われている場合があります。情報共有に遅れがあったり漏れがあったりすることで業務に遅れ生じることもありますので、「報連相」がスムーズに行える体制を整えることも重要です。
上司とのコミュニケーションを積極的に取る
「残業するな」という指示があるということは、少なからず残業が発生している状況なのでしょう。
時短勤務の場合は、1日の勤務時間が6時間以内です。他の従業員と同等の業務量をこなそうというのは、当然ながら無理があります。
勤務時間と業務量のバランスが悪いことで、残業が発生していることはないでしょうか。
時間管理や業務効率化など、残業を減らすための努力は当然必要ですが、業務上の課題があったり改善が難しいと感じていたりする場合は、上司に相談することが重要です。
また、定期的に業務の進捗状況を報告することで、現在の状況を共有し、必要なサポートが得やすくなる場合もあります。
上司と定期的にコミュニケーションを取り、期待される成果や目標について話し合うことで、現実的な業務量を設定することができます。
時短勤務であっても、無理のない範囲で高い成果を出すことができるでしょう。
「時短勤務」も「残業するな」もワークライフバランスの向上には欠かせない!
時短勤務で勤務時間が限られている中で「残業するな」と指示されては、もどかしさを感じることがあるかもしれません。
しかし、時短勤務や残業削減も、家庭と仕事のバランスを維持するためには大切な要素です。
限られた勤務時間の中でパフォーマンスを向上させることができれば、いずれ通常の勤務に戻った際には、効率よく仕事を進めるためのスキルと習慣が身についているでしょう。
ワークライフバランスの向上を目指して、残業時間の削減に前向きに挑戦してくださいね!