ロケツーリズムとは

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最近、「ロケツーリズム」という言葉を耳にする機会が増えたのではないでしょうか。ロケツーリズムは、映画やドラマの撮影地におもむいて、作品の世界をじっくりと味わうための旅です。
また、提供者側には風景や食事を堪能してもらい、地元の人と触れ合ってその土地のファンになってもらうという狙いもあります。今回は、ロケツーリズムの成功事例・失敗事例や成功のために必要なことなどを紹介していきます。
ロケツーリズムの成功事例

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ロケツーリズムはインパクトが大きく、成功すれば地域の経済が活性化します。
ここでは、ロケツーリズムの成功事例を紹介します。
「イケメンが集まる街」に生まれ変わった神奈川県綾瀬市
神奈川県の綾瀬市は、かつて足立区の綾瀬と間違われることの多いマイナーな街でした。しかし、ロケ誘致の成功とロケ地の活用により、現在では「イケメンが集まる街」と呼ばれる人気のロケツーリズムスポットになっています。
綾瀬市がロケツーリズムに力を入れ始めたのは2014年からのことです。専門家のレクチャーを受け、インターネットなどで情報発信を行い、下記のよう取り組みを行っています。
- ロケ利用の問い合わせを総合的に市役所で受け付ける
- ヒアリングシートを用いてロケ隊の要望を把握する
- 約300人の綾瀬市民をエキストラに登録
- 権利関係をクリアにした上でロケ地マップを作成・配布
こうしたきめ細かなサポートを提供することで、多くのロケが綾瀬市で行われるようになりました。とりわけイケメンアイドルグループのメンバーが出演するドラマや映画の撮影が多いことから「イケメンが集まる街」と呼ばれるようになったのです。
大正12年からロケ誘致の取り組みがある長野県上田市
長野県上田市は、大正12年のころからロケ誘致が行われた記録が残っているそうです。最初は映画を愛する民間の集まりで誘致していましたが、1997年からは行政と民間が協力し、映画祭が開催されるようになりました。
映画祭では、上田市でロケが行われた映画の上映や、映画関係者をゲストに招いてのトークショー、自主映画のコンテストなどが行われるそうです。
2016年には上田市でロケが行われた時代劇がブームとなり観光客数が1.3倍と劇的に増えました。また、レトロで美しい街並みを活かし、女性アイドルグループのミュージックビデオのロケや、女優のグラビア撮影にも多く利用されています。
このように多くのロケ誘致に成功している背景には、綾瀬市と同様に公的な窓口を設け、サポートの体制が整っていることがあります。商店や自治体へ協力依頼も行政が行い、ワンストップでロケ利用の手続きが済ませられる点も大きなメリットです。
また、上田市は大正時代からさまざまなロケが行われてきた土地のため、地域の住民がロケに慣れており、撮影がスムーズに進みやすい点もロケ地に選ばれる理由のひとつだそうです。
一時のブームで終わらせない山形県の取り組み
山形県は、昭和の終わりごろに大ブームを巻き起こした朝のドラマや、ジャズミュージックを主題にした青春映画のロケ地に利用されました。
ロケ誘致には成功しても観光に活かしきれず、人気を持続できないとう悩みを抱える地域が多い中、山形県では、一時のブームで終わらせないための取り組みがなされています。
冒頭で紹介したドラマは、2013年に映画化され再び注目を浴びることとなりました。山形の観光情報サイトでは、この映画のロケ地をマップにして公開しています。また、観光物産館には作中の名シーンを再現した人形ギャラリーも設けられ、当時のドラマのファンも、新しい映画のファンも訪れる場所となっています。
ジャズミュージックの映画についても、映画にちなんだ学生音楽祭を継続的に開催されています。楽器を持参すれば、映画のクライマックスで使われた曲の演奏に参加できるイベントや、映画の上映なども行われるそうです。
ロケツーリズムの失敗事例

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ドラマや映画がヒットすればロケツーリズムも成功するとは限りません。ここでは残念ながら失敗に終わった事例を紹介します。
ドラマの放送終了と老朽化で幕を閉じた資料館
北海道富良野市は1980~1990年代にかけて人気があったドラマの舞台となった土地です。
1995年に、ドラマで使われた衣装や小道具などの資料、約500点を展示した資料館がオープンしました。この資料館は、ドラマの製作に携わった個人の方が私財を投じて経営していたそうです。
連続ドラマの終了後もスペシャル版の放送などで一定の人気があり、一時期は富良野市の観光拠点となっていました。いちばん多い年で約9万人が資料館を訪れたそうです。
しかし、2002年に放映されたスペシャル版以来、新たなドラマが制作されなくなりました。その影響で客足も次第に落ちていきます。1日に2名しか来館がない日もあり、2013年ごろからは赤字経営が続きました。
テレビ局から譲り受けた大きな照明設備を展示していたため電気代も高額です。スタッフの人数を減らす、暖房を弱めるなどで経費の節約に努め、運営はぎりぎりの状態になりました。その折、建物老朽化が進み、雨漏りのする屋根の修繕や耐震化の工事が必要になりました。
しかし、費用を捻出することができず2016年に閉館に至ったとのことです。20年以上継続した資料館なので一概に失敗だったとも言えませんが、ドラマ終了後の人気の維持が困難だった例ですね。
大々的なロケにより一般観光客が楽しみにくくなる
クロアチアでもっとも人気のある観光地、ドブロブニクでは2016年の夏の観光シーズンに大人気のSF映画の撮影が行われました。映画ファンが集まり、ロケツーリズムの地として新たな客層を開拓しましたが、下記のような問題も起こったそうです。
- 宿泊施設が足りない
- 目当ての場所が撮影のため立ち入り禁止になっていた
- 旧市街地が投光器やカメラ、ケーブルで占拠され景観が楽しめない
このような要因で、映画ファン以外の観光客からの評価が落ち、宿泊施設が足りないことで集客のチャンスを逃してしまったのです。
撮影終了後も多数のファンがドブロブニクを訪れています。公開から数年経過した2019年現在でも、観光シーズンには宿泊施設がずっと不足しており、新規オープンするホテルはあるもののまったく追いついていないそうです。
世界的に人気の高い映画の撮影地ともなればロケツーリズムに来る人は増えますが、一般観光客への配慮も忘れないことが重要ですね。
ロケ誘致・ロケツーリズムを成功させるためには

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ロケツーリズムを成功に導くために、押さえておきたいポイントを紹介します。下記を行えば必ず成功する、というものではありませんが、成功事例で紹介した地域が共通して行っていたことなので、参考にしてみてはいかがでしょうか。
商談会や会合、ロケハンツアーを開催
ロケツーリズムを成功させるには、商談会や会合を開くことが有効です。時には市長や町長など、地域のトップが製作者に地域の魅力をアピールし、ロケを誘致するのです。地元の商業組合や漁業組合なども参加し、地域の特産品を作品内でPRしてもらえるように交渉するケースもあります。
また、撮影場所を探しに行く、ロケーション・ハンティングに市の職員が同行したり、おすすめの場所を紹介して回るツアーが組むなどのサポートを提供する地域もあります。
専門家によるレクチャーを受ける
ロケツーリズムは自治会や行政の感覚だけで進めると、失敗に終わる可能性が高いと言われています。専門家と共に、成功事例・失敗事例を深く学び、しっかりとした計画を立ててこそ成功するのですね。ロケ誘致・ロケツーリズムのサポートを主な業務としている企業もあります。
地元の人に参加してもらう
ロケツーリズムは、地域一帯となって成功を目指す必要があります。そのため地元の一般の人にも積極的に参加してもらうことが重要です。下記のような事例があります。
- ボランティアスタッフとして撮影に参加してもらう
- エキストラ役者として撮影に参加しもらう
- 地元の飲食店と協力して作品にちなんだメニューを開発する
- 地元のイベントで作品にちなんだ資料の展示をする
このような取り組みで、一般市民のひとりひとりに「自分も街づくりに携わっている」という意識を持ってもらうことが成功の鍵なのです。
課題は「一過性で終わらせない」こと

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山形県の成功事例・北海道の失敗事例のように、ロケ誘致に成功し、ロケツーリズムで人気が出た後は一過性の流行で終わらせないことが重要です。
そのためには滞在時間を伸ばし、リピーターを増やすための努力が必要です。各地ではスタンプラリーの開催や、地元商店街での限定商品販売などを行い、地域のさまざまなエリアに足を運んでもらえるよう工夫しています。
また、資料館などでは展示資料の入替や企画展が行われ、何度訪れても新鮮味を感じられるようにしているところもあります。2度、3度と訪れ、訪れるたびに好きになる観光地を目指して取り組んでいるのですね。
地域の魅力が広く伝わるロケツーリズム

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ロケツーリズム最大のメリットは日本全国の人に広く地元の魅力を発信できる点ではないでしょうか。「ロケ地に行ってみたい」というきっかけで訪れた人に、その地域ならではの魅力を広く伝えられるようPRしていきましょう。