変形時間労働制とは?
変形時間労働制とは、労働時間を週単位・月単位・年単位あるいはフレックス制によって、法定労働時間内(週40時間、特例事業の場合は44時間まで)を超えないように調整する、労働時間の運用制度です。
業務量に応じて人員を調整することができるため、繁閑の差が激しく24時間働き手が必要な宿泊業では特に取り入れたい制度ですが、どのようなメリットがあるのでしょうか。
導入のステップや、注意が必要なデメリットについても解説します。
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変形時間労働制の種類
変形時間労働制には、以下4つの種類に分類されます。それぞれの特徴を見比べてみましょう。
1週間単位の変形労働時間制
1週間単位の変形労働時間制は、従業員数30人未満の小売業や旅館、飲食店などの事業において、1週間単位で労働時間を調整できる制度です。
1週間の労働時間が40時間以下になるように定め(特例事業も同様)、それを超える分については割増賃金の支払います。曜日によって繁閑の差がある業務に適切でしょう。
1ヶ月単位の変形労働時間制
1ヶ月単位の変形労働時間制は、1ヶ月以内の期間を平均して、1週間あたりの労働時間が40時間(特例事業は44時間)以内となるように調整する制度です。
平均40時間未満とすれば条件をクリアできるため1週間単位の変形労働時間よりも、幅広い調整ができるでしょう。月末・月初で繁閑の差がある事業に適しています。
1年単位の変形労働時間制
1年単位の変形労働時間制は、1ヵ月を超える1年以内の期間について、1週間あたりの労働時間が40時間を超えないことを条件とし、労働時間の配分を行う制度です。
スキーやマリンスポーツなど、季節による繁閑の差が大きな事業に適しているでしょう。
フレックスタイム制
フレックスタイム制は、総労働時間を定めたうえで、日々の出退勤時間を労働者本人が自由に決定できる制度です。
必ず出勤していなければならない「コアタイム」を設けることも可能で、業務を滞りなく回すことと、労働者の私生活の充実・利便性を両立できることが特長です。
フレックスタイム制は、子育て中の社員を多く抱える企業や、通勤電車が混雑する都市部の企業に適した制度です。
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変形時間労働制の導入ステップ
変形労働時間制を導入したい!と思ったら、まず何から始めればよいのでしょうか。必要なステップを順番に見ていきましょう。
1.勤務実績や客足などの調査
変形時間労働制を導入する目的は、繁閑に合わせて人員の数を適切にそろえることです。
まずは、過去から現在までの従業員の残業時間や、利用客の数などを調査しましょう。
2.期間や所定労働時間、対象者の決定
残業時間や繁閑の状況を洗い出したら、期間や所定労働時間、対象者を決めていきます。
残業が多い時期や、客足が伸びる時期に所定労働時間を長くし、その分他の時期の所定労働時間を短くするのが、変形労働時間制を効果的に運用するための基本です。
繁閑の差が出るスパンや、従業員数などを総合的に考慮して決定しましょう。
3.就業規則の整備/労使協定の締結
変形労働時間制を新たに導入することで、従業員の働き方が変化します。それに合わせて就業規則の整備や、労使協定の締結が必要です。
就業規則・労使協定で定めるべき項目は以下の通りです。
- 対象労働者の範囲
- 変形期間
- 変形期間の起算日
- 変形期間内の労働時間
- 労働日の始業、終業時刻
- 有効期間(労使協定の場合のみ)
4.労働基準監督署への届け出
就業規則の変更や、労使協定の締結を行った場合は労働基準監督署への届け出が必要です。また、残業や休日出勤の可能性がある場合は、36協定も提出しましょう。
なお労使協定・36協定は有効期限を定めることが義務付けられています。有効期限が過ぎる前に締結しなおし、再提出が必要なので注意してください。
変形時間労働制のメリット
変形労働時間制は、正しく導入・運営すれば企業にも労働者にもメリットがあります。もたらされるメリットについて、解説します。
人員の過不足を緩和できる
変形労働時間制は、人員の過不足の緩和に効果的です。閑散期や客足の少ない時間帯に、従業員が暇を持て余したり、忙しい時に人手が不足することを防げるでしょう。
その結果として、業務が無駄なくスムーズにまわり、生産性のアップが期待できます。
残業代を削減できる
業務量が多い時期にかさみやすい残業代は、変形労働時間制で削減することができます。
週・月・年の単位の平均で、週40時間以内に収まる時間までは残業にならないためです。繁忙期に毎日1時間の残業が発生するのであれば、閑散期の所定労働時間を1時間短縮したり、休日を増やすといった工夫で対応しましょう。
ワークライフバランスが取りやすい
労働者にとっての変形労働時間制のメリットは、ワークライフバランスが取りやすいことでしょう。繁忙期は仕事に集中し、閑散期には連休を取って旅行に行くなど、メリハリを付けて働くことができます。
変形時間労働制のデメリット
企業と労働者の双方にメリットをもたらす変形時間労働制ですが、把握しておくべきデメリットもあります。導入・運用するうえで注意したいポイントと併せて見ていきましょう。
導入に手間がかかる
導入ステップの項目でも解説したとおり、変形労働時間制は始めよう!と思ってすぐに開始できるものではありません。現在までの労働時間などの調査や時間配分の決定、労働基準監督署への届け出など、やらなければならないことが多々あります。
また、ある程度のデータが蓄積されていなければ、適切な時間配分が難しい可能性もあります。
制度の内容を途中で変更できない
変形労働時間制は導入の計画を立てる段階で、期間や時間配分を決定します。
そして実際に運営を始めた後に「この労働時間は適切ではない」と思っても、期間の途中で変更することはできません。導入を開始する段階で十分なデータ分析を行い、根拠のある数字で設定しましょう。
従業員に不信感を持たれる懸念
残業代の削減や人手不足の解消に役立つ変形労働時間制ですが、そのことが従業員に不信感を持たれる原因となる場合があります。
制度について、きちんと説明をしなければ「残業代未払いでは?」「理由もなくシフトを減らされた!」といった誤解が生まれるでしょう。
制度を開始するタイミングで、従業員ひとりひとりの理解度を確認しながら、説明を行いましょう。
適切な変形時間労働制の運用で効率的な人員配置を
変形時間労働制は対象者の範囲や労働時間の配分を誤ると、返って業務が周らなくなるなど逆効果に終わる場合があります。多角的に検討したうえで、適切に導入・運用しましょう。
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