旅館・宿は高齢者に優しい設計をすべき!
2019年に総務省が発表した人口推計によれば、総人口に占める65歳以上の高齢者人口の割合は、過去最多の28.4%にも上ったとのことでした。
75歳以上の後期高齢者は総人口の14.7%、およそ7人に1人が後期高齢者という数字からも分かる通り、世界に類を見ない水準で日本の少子高齢化は加速を続けています。
では宿泊業者は、この高齢社会にどう向き合っていくべきなのでしょう。
真っ先に思い付くのは「バリアフリー化」などによる、高齢者のお客様への対応ですよね。取り組みを進めるか否かで、高齢者のお客様の利用者数に差がつくことは想像も容易でしょう。しかし、バリアフリーの他にも、高齢者を歓迎する宿づくりの方法はたくさんあるのです。
「高齢者に優しい宿づくり」のヒントになるであろう具体例や重要な考え方をまとめましたので、これからますます進む高齢化社会を生き残るための、経営のヒントにしてみてください。
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高齢者に優しい宿づくりの基礎知識
まずは、高齢者を受け入れるために最低限覚えておきたい知識をおさらいしておきましょう。
バリアフリー法
高齢者や障がい者の移動を円滑にすることが目的に作られたのがバリアフリー法です。
病院・デパートなどの不特定多数が利用する建物や施設、公共交通機関では、一定の条件のもと車いすが通れるほどの道幅の確保や、スロープの設置などが義務付けられています。ホテル・旅館のバリアフリーについて理解を深めたい方は、下記も参考にしてみてください。
旅館のバリアフリー化は誰もが当事者になり得るという心のバリアフリーから始まる
ユニバーサルデザイン
ユニバーサルデザインは、アメリカで提唱された概念です。国籍や性別、年齢や障害に関わらず「誰もが使いやすいデザイン」という考えが前提となっているため、誰にとっても優しい宿づくりをするためには非常に重要な観点と言えるでしょう。
最近では、このユニバーサルデザインをもとにした「ユニバーサルルーム」という客室を提供するホテル・旅館も増えているそうです。
シルバースター登録制度
シルバースター登録制度とは、高齢者への配慮を行っているホテル・旅館に称号が与えられる制度です。厚生労働省の協力を受け、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会が推進しています。下記は、シルバースター登録基準の一部を抜粋したものです。
- ・客室内浴室・トイレには必要に応じ、手すり等が設置されていること。
- ・共同トイレ内に事故発生時用の連絡設備があること。
- ・部屋割についてはできる限り高齢者が利用しやすい客室を提供すること。
このように、設備・サービス・料理面などで一定の基準を満たした宿には「高齢者に優しい宿」という称号が与えられ、高齢者の宿選びの助力にもなりますので、気になるホテル・旅館担当者は公式WEBサイトから詳細をチェックしてみてはいかがでしょうか。
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高齢者に「優しい」と感じてもらえるのはどんな宿?
前項では、バリアフリー法・ユニバーサルデザイン・シルバースター登録制度について簡単にご紹介をしましたが、具体的にはどのような宿が高齢者に優しいとされているのでしょうか。施設・接客・サービスの3点から解説します。
高齢者が使いやすい「施設」
高齢者は年々筋力が落ちるため、若者のような軽快な移動は難しくなるものですよね。そのため、足腰の弱い高齢者のために「手すり」を用意しておくのが、高齢者に優しい宿づくりのはじめの一歩と言えるでしょう。
階段はもちろんのこと、長い廊下や浴場、お手洗いに手すりがついているのといないのとでは、高齢者が感じる安心感は大きく変わってきます。
他にも、スロープの用意、段差の削減、文字の大きい案内表示などがあれば、高齢者は宿を不自由なく利用することができます。
高齢者にもわかりやすい「接客」
高齢者に優しいと感じてもらう宿は、施設内の物理的な障害を無くすだけでは成り立ちません。もちろん、接客も高齢者に寄り添う必要があります。
高齢者が聞き取りやすいようにゆっくり口を大きく開けて話をしたり、質問をする際に「はい」か「いいえ」で返答できるような聞き方をしてあげることもまた、高齢者に優しい宿づくりに繋がることでしょう。
高齢者が満足する「サービス」
お客様は、宿の「サービス」を楽しみにしています。温泉で体を憩い、美味しい食事に舌鼓を打ち会話が弾ませ、ほどよく楽しんだ後の睡眠で日常の疲れを癒す、というのが旅の醍醐味ではありますが、食事にまで工夫を凝らす宿は高齢者からの支持が厚くなります。
具体的には、かみ切りやすい・飲み込みやすいなどの食べやすさ、食欲を増進させるような彩りや盛り付け、栄養バランスの取れた食材を使用するなどの配慮です。
潜在ニーズであることも多いようですが、高齢者の気持ちを汲み取り配慮をする宿は、きっと高齢者に優しいと感じてもらうことができるでしょう。老眼鏡の貸し出しや、タクシー呼び出しなど小さなところから始めてみるのも良いかもしれません。
高齢者が「優しい!」と高い評価を受けた宿
高齢者から高い評価を受けている宿は数多くあります。実際に、どんな宿の取り組みが高齢者の心を動かし、高い評価に繋がったのでしょうか。3つの具体例をご紹介します。
各室温泉・食事付きの宿
各室に温泉があり、部屋食ができる旅館・ホテルは高齢者からの支持を集めやすいようです。理由は、不必要な移動が発生しないためでしょう。
これから高齢者に優しい宿づくりをするホテル・旅館が「各室温泉」を付けるのは少々ハードルが高いものですが、食事を部屋に運び、提供するということであればそこまで難しくはないはずです。ぜひ検討してみてください。
車いす対応・電動ベッド付きの宿
とあるホテルでは、ツインベッドのうち1台が電動ベッドとなっている客室があるようです。足腰の弱い高齢者にとってはとても嬉しい設備ですよね。
そして、洋室は車いすが前提となっているため、スペースは広く段差はありません。洗面所でさえ車いすで利用できるというほどのバリアフリー化された客室は、全国でもそう多くはないでしょう。高齢者のお客様からの評価が高いのも頷けます。
電動式のベッドは決して安価ではありませんが、地域の中で導入している宿がなければ自旅館・自ホテルの売りとして数台設置し、認知度を高めるのも良いかもしれませんね。
宴会場でテーブル席を選べる宿
部屋食の提供が難しいという宿は、宴会場にテーブル席を用意するという方法を取ってみてはいかがでしょうか。
ある旅館では、部屋食は提供せず、食事は全て宴会場で提供されています。しかし、足腰の悪い高齢者や生活様式の変化を配慮し、お膳・座椅子での提供か、椅子テーブルでの提供かの食事形態が選択できるようになっています。
これなら、立ち上がりに不安を覚える高齢者も安心して利用をすることができますよね。
高齢者に優しい宿づくりに重要なポイント
高齢者から支持され、「優しい宿」という評価を受けるためにはどのようなことに気を付けなければならないのでしょうか。高齢者に優しい宿づくりをする際に重要となる3つのポイントをご紹介します。
高齢者の立場で考える
最も大切なのは、高齢者の立場になり宿づくりを考えていくことです。入退館・入浴・館内移動・食事・睡眠など、どのシチュエーションでどこに不便を感じるのかを、高齢者の意見を聞く、あるいは従業員で体感・考えを巡らせてみれば、きっと優しい宿ができるはずです。
ただし、高齢者と一口に言っても、足腰が弱い、指が動かしづらい、目が見えづらい、耳が聞こえづらいなど、人によってハンディは大きく異なります。また同時に、程度が異なることも覚えておかなければなりません。
全ての方に同じように使いやすい宿を目指すのは難しく、またハード面を高齢者仕様にするとなれば大規模な改修工事が必要になるということもありますので、まずは手をつけやすい所から取り組みを進めてみてはいかがでしょうか。
また、補助金を上手く利用するのもひとつの手です。下記もぜひ参考にしてみてください。
スタッフ間の受け入れ体制
冒頭でもご紹介しましたが、高齢者に優しい宿はハード面とソフト面を両立しなければ成り立ちません。つまり、従業員全員がきちんと「高齢者に優しくする」という心持ちで接客に臨む体制を整えなければならないのです。
指導することは簡単ですが、現場で実践ができるかどうかは従業員ひとりひとりの気持ちにかかっています。そのため、予約者情報の共有や朝礼でのエピソードトークの共有など、常日頃から高齢者を意識してもらえるような取り組みを進めてみてくださいね。
消防訓練のタイミングあるいは新人研修などで、高齢者疑似体験を取り入れるのも良いでしょう。
ホームページや予約サイトでの紹介
「高齢者に優しい宿」として一定の評価を受けている宿は、ホームページでしっかりと自旅館・自ホテルの高齢者に対する取り組みを公開しています。中には、予約サイトにも取り組みページを設けている宿があるほどです。
ハード面・ソフト面ともに高齢者を受け入れる体制ができたとしても、PRをしていかなければ高齢者自身に選んでもらうことができません。ですので、館内の対応ができたことで満足でず、外に発信するまでが優しい宿づくりに繋がるということも意識しましょう。
高齢者に優しい宿はすべての人に優しい!
高齢者に優しい宿づくりには、手すりやスロープを設置するハード面と、接客やサービスのソフト面の両面から見ることが重要です。
高齢者の立場で考えれば、足りない部分が必ず見えてくるはずです。また高齢者に優しい宿は、すべての人に優しい宿にもなります。固定観念にとらわれず、広い視野で自旅館・自ホテルを見つめ直してみてはいかがでしょうか。
また、高齢者に優しい宿づくりを考えるために、年配の従業員を雇うのもひとつの手です。超高齢化社会を生き抜くためのヒントを、顧客目線・従業員目線の両面から与えてくれるかもしれません。
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