旅館での食物アレルギー対応は難しい現状がある
旅館に宿泊するお客様の中には、食事が大きな楽しみとなっている方も多いことでしょう。しかし、旅館の食事に不安を覚えるというお客様もいます。それは、食物アレルギーを持つお客様です。
旅館では腕によりをかけた料理を振る舞うことも多いものですが、提供する料理は一斉に調理されることが多いため、調理に手間がかかる食物アレルギーを持つお客様への特別食まで用意ができていないという旅館も少なくないのではないでしょうか。
では、旅館は食物アレルギーにどう向き合っていくべきなのでしょう。アレルギーを持つお客様への受け入れ・対応の参考にしてみてください。
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旅館に必要なアレルギー対応の知識
食物アレルギーを持つお客様の受け入れを考える時にまず必要となるのが、アレルギーに対する知識です。食物アレルギーの基礎知識をご紹介します。
なお、本記事は食物アレルギー診療ガイドラインを元に記載しております。情報が古くなっている可能性もあるため正しい情報については食物アレルギー診療ガイドラインを参照することをお勧めします。
食物アレルギーとは?
食物アレルギーとは、特定の食べ物の中に含まれるアレルギーの原因物質「アレルゲン」に体の免疫機能が過剰に反応してしまうことで、湿疹・かゆみ・咳・下痢などの症状を引き起こすことを言います。
食べ物を摂取した後、腸から吸収されたアレルゲンが血液にのり全身に運ばれるため、症状は皮膚や呼吸器をはじめ、眼・鼻・喉など様々な部位で現れるのが食物アレルギーの特徴です。
また、食物アレルギーが引き起こす最も重い症状である「アナフィラキシー」は、アレルギー症状が急速に全身に巡る症状を言い、急激な血圧の低下、意識障害、呼吸困難などが起こり、最悪の場合死に至る恐ろしいものです。
有症率は、乳幼児期が最も高く、加齢とともに次第に減っていきますが、どの年代であっても決して甘く見てはならないということを覚えておきましょう。
アレルギー特定原材料7品目とは?
食物アレルギーの原因物質は様々ですが、症状を引き起こす原因食品は鶏卵に次いで牛乳・小麦の割合が大きく、この3品目をあわせると7割ほどの割合となります。
その他、症状が出る割合が高い4品目を加えた下記「アレルギー特定原材料7品目」は、食品表示法により、容器包装された加工食品での表示が義務づけられていています。
卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そば
旅館をはじめ、外食を提供する事業者のアレルギー特定原材料7品目の表示義務はないものの、食品・食事を提供する事業者であれば、必ず覚えておくべきものと言えるでしょう。
参照:食物アレルギー診療ガイドライン / 日本小児アレルギー学会
その他のアレルギー原因物質
いくら、キウイフルーツ、くるみ、大豆、バナナ、やまいも、カシューナッツ、もも、ごま、さば、さけ、いか、鶏肉、りんご、まつたけ、あわび、オレンジ、牛肉、ゼラチン、豚肉、アーモンド
上記は「特定原材料に準ずる21品目」として指定されています。加工食品の容器包装にも表示の義務はありませんが、表示を推奨されている品目です。
海産物も多く含まれますので、特に海鮮料理の提供を売りにしている旅館は注意するようにしましょう。
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旅館でのアレルギー対応は義務?
前述の通り、「アレルギー特定原材料7品目」を含む加工食品や特定原材料を工場内で加工している場合には、加工食品の容器包装に特定原材料を含んでいる旨・含まれている可能性がある旨を記載しなければなりません。
しかしこれは、加工食品に限った話です。外食については現在のところ表示は義務付けられていません。よって、料理を提供する旅館も、特定原材料を表示する義務は無いのです。
朝食・夕食のタイミングでは、様々なメニューを手早く調理しなければならず、常に特定原材料に注意を払って調理をするのは難しいという旅館もあることでしょう。また、提供する料理が頻繁に変わるという旅館も少なくないはずです。
このような理由から、多くの旅館でアレルギーへの対応をしきれていないという現状があります。しかし、この状態では真のおもてなしとは呼べません。
特定原材料の表示は義務ではない、かつアレルギーを持つお客様からの声掛けが多いはずですが、アレルギー対応へどう向き合っていくべきか、どこまでの対応ができるかを考えることが、真のおもてなしへと繋がるのではないでしょうか。
アレルギー対応を行っている旅館の事例
実際にアレルギー対応を行っている旅館は、どのような取り組みを行っているのでしょうか。3つの旅館の事例をご紹介します。
宿泊3日前までの電話・FAX・メール相談を受付
食物アレルギーへの対応を行っている旅館の多くが、お客様へ「宿泊3日前」までの連絡をお願いしているようです。
案内はホームページでされていることが大半ですが、中には各宿泊予約サイトに「アレルギー対応について」というような形で自旅館の取り組みを表記している旅館も存在します。自旅館でアレルギー対応を行う際には、ぜひ様々な場所で公表をするようにしてくださいね。
旅館独自のアレルギーチェックシートを展開
旅館独自のアレルギーチェックシートをホームページで展開し、お客様に記入を促している旅館もあります。チェックシートには、下記のような項目を用意していました。
- ・個人情報(氏名・性別・年齢・連絡先・メールアドレス)
- ・医師に「食物アレルギー」と診断され、通院しているかどうか
- ・アレルギー特定原材料7品目に対する原因食品のチェックと症状例
- ・アナフィラキシーショックを起こしたことがあるかどうか
- ・家庭内での対応方法
旅館が対応する範囲によりチェックシートは変わってきますが、チェックシートがあればお客様が旅館へ伝えるのも楽になりますよね。また、テンプレート化はお客様のメリットだけでなく、料理部門の確認が楽になるというメリットもあります。
対応できる範囲をホームページに明記
醤油の基本原料は大豆・小麦・食塩ですが、旅館では和食が提供されることも多いため、醤油を一切使わずに調理するのはなかなか難しいものがありますよね。九州や四国で使われることが多い、麦味噌なども同様です。
しかし、醤油・味噌までも使用しない料理を提供することができる、と謳う旅館もあります。その旅館では、アレルギー対応範囲の他にも、料理に関し下記のような様々な提案をしています。
- ・小麦アレルギー:米味噌を使用、必要であれば醤油も除去
- ・甲殻類アレルギー:その他の魚料理または肉料理に変更
- ・糖尿病の方:糖分を控えるためアイスクリームをフルーツに変更
- ・腎臓病の方:塩分を控えるため減塩醤油を使用
- ・生ものが苦手な方:肉・魚介類に火を通して提供
旅館によってアレルギーに対応できる範囲は異なるはずですので、アレルゲン物質を全て取り除くのは難しいということを明記したうえで、自旅館が対応できる範囲を明記しておけばお客様はより安心して足を運ぶことができるでしょう。
旅館がアレルギー対応に向き合う際に考えるべきこと
旅館がアレルギー対応を行っていく場合、どのようなことを考えるべきなのでしょう。アレルギー対応を開始する際にぜひ考えていただきたい3つの点をご紹介します。
対応できる範囲を決定する
特定原材料7品目を使用した料理は全て提供しないような対応にするのか、その他21品目にはどう対応するのか、原材料を取り除き別の料理を提供するのかなど、対応できる範囲は旅館の状況によって大きく異なるはずです。
全て取り除けることがベストではありますが、そうもいかないということもあるはずですので、まずは対応可能範囲を自旅館で決定するようにしましょう。
連絡方法を明記する
先ほどアレルギーチェックシートを用意している旅館をご紹介しましたが、旅館によっても好みの連絡手段は分かれるものです。
下手をすれば命に関わるのがアレルギーですから、丁寧なヒアリングを行うために電話連絡を強く望む旅館もあります。ある程度簡略化したいと考える旅館では、チェックシートの記入をお願いしたうえで後ほど改めてお客様へ電話で確認をとるという旅館もあるようです。
電話・メール・FAXなど全ての連絡手段を表記するのも良いですが、旅館が希望する連絡手段まで表記することができれば対応もスムーズになるはずです。
対応の解決策を提示する
アレルギーを持つお客様からすれば、アレルギー対応をしてくれるというだけでもありがたいと感じるものです。ただ中には、「他の人と同じ料金を払うのだから、同価値程度の料理を提供して欲しい」と内に感じているお客様もいることでしょう。
そんなお客様の不安・不満を先に取り除いてあげられるのは、具体的な解決策を提示することです。
魚介類・甲殻類が食べられない場合には肉に変更する、別料理は追加予算で対応ができる、などという解決策を提示するだけでも、幾分か不安は払拭されるはずですので、可能な限り対応の解決策を掲示することをおすすめします。
旅館はアレルギーのお客様に寄り添う気持ちが大切!
旅館には、様々なお客様が宿泊されます。旅館を経営しているのであれば、過去に少なくとも1度はアレルギーを持つお客様の来館があったはずです。
アレルギー症状の重さは人により異なるため、一概にどの対応を取るのが正解とは言えません。また対応は決して簡単なものではないため、対応をする・しないも旅館の考え方次第です。
しかし、アレルギーを持つお客様が他のお客様と同じような快適な時間を過ごすことができないというのは、少々寂しい話ですよね。
原因物質を一切排除することは不可能に近いものの、対応をしてくれるというだけでお客様に喜んでいただけるはずですので、対応を検討している旅館はぜひ前向きに検討をしてみてはいかがでしょうか。
ただし、お客様の要望を全て聞き入れてしまえば、単なる御用聞きになり、従業員の負荷が増すばかりになってしまいます。対応を開始する際は、ある程度割り切る気持ちを持ったうえで対応を行うようにしてくださいね。