ホテル・旅館のマニュアル作成とメリット・デメリット

組織を運営、マネジメントするうえで欠かせないのが、業務の効率化や生産性の向上です。それに役立つのが、ズバリ「マニュアル」。マニュアルを作成することで、サービスの質が安定するなど多くのメリットを得られます。その一方、ホスピタリティやおもてなしが重視されるホテル・旅館の業務と「マニュアル」は相性が良くないのでは?と思われることも。そこで当記事では、宿泊業界におけるマニュアル導入のメリットとデメリットをわかりやすく解説します。

ホテル・旅館の仕事はマニュアル化できる?

ベッドメイクするホテルスタッフ

iStock/KatarzynaBialasiewicz

「マニュアル化する」「マニュアル通りの仕事ぶり」などと聞くと、なんだか冷たいようなイメージを持たれがちです。ホテル・旅館の業務にはおもてなし精神・ホスピタリティマインドが何よりも大切なので、マニュアルを作成しその通りに業務を行うことに対しての抵抗も少なくないでしょう。

しかし、本当にマニュアルとホテル・旅館の仕事は相容れないものなのでしょうか。ホテル・旅館の仕事を「サービス」と「ホスピタリティ」の2つに分けて考えてみましょう。

某老舗ホテルでは、「サービス」とは支払われた金額に見合った商品や接客を行うこと。「ホスピタリティ」とは、自らつくり出す温かさや歓迎、思いやりによってお客様との関係を育成し、プラスアルファの快適さや安心感を生み出そうとすることと定めています。

サービスとホスピタリティはどちらも目に見えないものですが、サービスが最低限提供しなければならない行為であるのに対し、ホスピタリティはその1段上をいく行為ととらえられますね。この2つのうち、サービスについてはマニュアル化が可能ですし、むしろ必要なことだと言えるでしょう。

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ホテル・旅館でマニュアルを作成するメリット

並んでお客様をお迎えするホテルスタッフ

iStock/andresr

では、ホテル・旅館の「サービス」をマニュアル化することに対してのメリットを紹介します。

サービスの質が安定する

お客様がお金を支払い、それに見合う分の行為を提供するのがサービスでしたね。となると、提供する人によってサービス内容に差があったり不足があったりするのは問題です。

そうした事態を防ぎ、サービスの質を安定させるためにマニュアルが役立ちます。サービス内容をマニュアル化することで、どのスタッフがサービスを提供しても質が変わらない(=標準化)が可能になります。

社員教育の簡易化

業務内容がマニュアル化されているということは、最低限すべきことが明確に定められているということです。マニュアルがあることで、新人が入ってきた場合の指導・教育が格段にスムーズになります。

よくある「先輩によって教える内容が違う」といったトラブル防止にもなるため、教える側・教えられる側双方にとってストレスが軽減されるメリットもあります。

コスト削減

業務効率化、生産性の向上をはかるうえで大切なのは、今の業務内容にいかに「ムリ・ムダ・ムラ」があるかを見つけてつぶすこと。つまり、あらゆるコストの削減ですよね。ここでもマニュアルの作成が役立ちます。

一からマニュアルを作るとき、まず必要になるのが業務内容の洗い出しです。この過程でムダな作業や一部のスタッフに大きな負荷がかかっている時間帯など、ホテル・旅館内のさまざまな問題が可視化されます。その上でマニュアルを作るので、結果的に全体的な業務効率化が実現するはずです。

評価しやすくなる

ホテル・旅館の売上増のためにも、スタッフのモチベーションアップのためにも、働きぶりに応じた評価制度を取り入れることが大切です。しかし、人によって仕事のやり方が違うと働きぶりや成果がはっきりせず、正当に評価するのが難しい場合があります。

業務内容をマニュアル化、標準化することによって個々の仕事ぶりが可視化されるため、評価しやすくなります。また「頑張った分をしっかり評価してもらえた」という実感は、スタッフのモチベーションアップにもつながります。

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ホテル・旅館でマニュアルを作成するデメリット

悩む女性

iStock/metamorworks1

一方、マニュアル化によるデメリットにも触れておきましょう。

作成に時間がかかる

ホテル・旅館の業務は多岐にわたり、それらをすべてマニュアル化しようとすると、膨大な時間と労力がかかります。人員的な余裕がない中小規模ホテルの場合は特に、大きなデメリットに感じられるでしょう。

とはいえ、

  • ・チェックイン・アウト
  • ・予約の受付や照会などシステムの操作
  • ・食事の用意
  • ・客室清掃の手順 など

こうした基本的な業務は、頻繁に変更が生じる性質のものではありません。一度マニュアルを作成してしまえば長く使えるので、必要なコストと割り切ることも大切です。

スタッフのモチベーションが下がる

いくら業務を標準化するためとはいえ、あまりに細かいマニュアルを作ってしまうのは考えものです。どんな状況に立たされてもマニュアル一辺倒の対応となり、「冷たい」「杓子行儀だ」などとお客様からマイナスなイメージを持たれやすくなります。

またマニュアルで言動が制限されると、スタッフ自身もそれに対してストレスを感じるようになり、モチベーションを下げる原因になりかねません。

マニュアルに縛られないホスピタリティも大切

ドアを開けるドアマン

iStock/SolStock

「サービス」をマニュアル化することについて述べてきましたが、ホテル・旅館の仕事に欠かせない「ホスピタリティ」についてはどうでしょうか。これはお客様をもてなしたい、喜んでもらいたいという気持ちから生まれるものであり、それに基づく行為なので、マニュアルに落とし込むのは難しいでしょう。

例えばチェックインしてきたお客様をお出迎えして、部屋を案内するのが「サービス」であり、この一連の流れはマニュアル化できます。一方、そのお客様の中に年配の方がいるのを見て「3階にお部屋を取っていますが、1階に変更しますか?」と提案するのが「ホスピタリティ」です。こうした対応はケースバイケースの性質が強く、マニュアル化しようと思っても難しいですよね。

このように、ホテル・旅館の業務すべてをマニュアル化することはほぼ不可能と言えるでしょう。逆を言えば、マニュアル化できないホスピタリティこそが、そのホテル・旅館の良さであり魅力だとも言えます。宿泊業界には「お客様に喜んでもらいたい」という気持ちを原動力に働く人が多いため、スタッフにある程度の裁量権を与えてホスピタリティを強化することも大切です。

サービスとホスピタリティとを分けて考え、マニュアルを作成しよう

相談してマニュアルを作る

iStock/fizkes

ホテル・旅館で提供しているのは「サービス」と「ホスピタリティ」であり、この2つを分けて考えることが大切です。ホスピタリティはマニュアルできるものではありませんが、サービスについてはどんどんマニュアル化し、効率化を図りましょう。

マニュアルのメリット・デメリットを考慮したうえで、お客様にとっては気持ちよく過ごせる、スタッフにとっては気持ちよく働けるホテル・旅館づくりを進めていきたいですね。

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