ホテルや旅館で働き始めた新人が最初に受ける教育とは
ホテルや旅館などの宿泊業界において、新人が初めに受ける教育は座学での集団研修が多いでしょう。新卒である程度まとまった人数が新人として入社してきた場合、基礎的な内容を教育するのに効率が良いからです。なお、中途採用についてはこの限りではありません。一通り基礎が教育し終わったら、先輩スタッフがトレーナーとしてついて実地研修(OJT)を進めるのが一般的です。
では、新人教育の具体的な内容について見てみましょう。
ホテルのシステム
まずは、ホテル内のシステムや設備、職場内ルールなどについて学びます。客室やレストラン会場の場所や種類をはじめ、ホテル内についてお客様から質問を受けたら、きちんとお答えできるようにしておかねばなりません。
また、予約確認やチェックイン・アウトを管理するフロントシステムの操作についても覚える必要があります。この後のOJTでは実際に扱ってもらうので、OJTをスムーズに進めるためにも、まずは基本の操作方法について把握してもらいます。
ビジネスマナー
電話応対やお客様に対する敬語、姿勢などの接客スキルや、名刺交換やビジネスメールなどのビジネススキル。こうした、社会人として習得しておきたい基本的なビジネスマナーも新人のうちにしっかりと教育しましょう。
こうしたマナーは宿泊業界に限るものではありません。ホテルを訪れるお客様に、「ここのホテルマンはビジネスマナーも覚えていないのか」と思われてはいけません。新人のうちにきちんと教育することで、間違った知識で覚えてしまうことを防ぎ、ホテルスタッフ間でのマナーレベルを統一化することもできます。
ホテルマンとしての心得、知識
ホテルに訪れるお客様にとって、スタッフが新人かベテランかは関係のないことです。新人であってもホテル・旅館の代表だという意識を持って接客に臨む心構えが必要になります。
そこで、新人教育の際にまず伝えておきたいのが「接遇マナー5原則」です。具体的には、
- ・挨拶
- ・態度
- ・表情
- ・身だしなみ
- ・言葉遣い
この5つ。簡単にいえば「相手に好印象を持ってもらうための基本のマナー」のことをいいます。新人教育では、接客の基本中の基本として「接遇マナー5原則」を覚えてもらうことから始めましょう。
また、ホテルや旅館には外国人観光客もたくさん訪れます。簡単な接客英語を覚えておくと、いざという時に役に立つはずです。
防災、有事の際の対応方法
災害など有事の際に、お客様を安全なところまで誘導するのはスタッフの仕事。災害時の対応方法や備蓄品の保管場所を把握すること、食品衛生の知識習得などもホテルマンには必要な知識です。所轄の警察署や消防署から有識者を呼んで、講習会をしてもらうことでもより知識が深まるでしょう。
また、日本語が理解できない外国人のお客様が宿泊されているときの救助、誘導方法などについても、研修内容に盛り込むことをおすすめします。
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宿泊業界での職務経験はありますか?
新人教育において大切なポイント
新人教育において、大切なポイントは2つあります。1つは目標設定です。右も左もわからない状態の新人にとって、目標設定は「これを頑張ることで、最終的に何を目指すか」を指し示す、方位磁針のようなもの。宿泊業界でいえば、お客様に安心やくつろぎを提供する、心地よい時間を過ごしてもらう、などが達成するための目標になるでしょう。
大きな目標を定めたら、それを達成するために小さな目標を決めていきます。安心やくつろぎを提供するために、「常に笑顔で接客する」「英語のスキルを向上させる」といった具合です。
もう1つが、成長の実感です。接客業は営業職と違い、成果が数字に表れないので、成長を実感しにくい側面があります。これを可視化するための1つの方法として、「カークパトリックの4段階評価法」が挙げられます。これは、アメリカの経営学者・カークパトリック博士が1959年に提案した教育評価法で、教育の達成度を4段階に分けて評価するというもの。4段階とは、
- ・レベル1……Reaction(反応)
- ・レベル2……Learning(学習)
- ・レベル3……Behavior(行動)
- ・レベル4……Results(業績)
このように分けられています。この指標を活用することで、今現在トレーニー(研修生)が目標達成をゴールとしてどの段階にいるのか、評価に値する働きができているのかを判断しやすくなります。成長を実感できれば仕事に対するモチベーションもアップし、定着率向上にもつながるはずです。
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宿泊業界における、最新の新人教育事情
2020年東京オリンピック開催を受けて盛り上がりを見せている宿泊業界ですが、その一方で人材不足が深刻な状況が続いています。働く人が不足しているということは、新人教育に割ける人手も足りないということ。そうすると必然的に、ホテル・旅館内の人間だけでは十分な教育ができない状況に陥ります。
そうした流れを受けて近年では、新人教育を外部のコンサルタントに依頼するケースが増えています。もちろんOJTについては、自ホテルでの勤務経験のある先輩スタッフが担当しなければなりません。しかし基礎研修だけでもアウトソースできれば、新人教育にかかる負担を減らせますし、トレーナーによって教育内容にばらつきが発生するリスクも抑えられます。
また施設によっては、さらに新しい取り組みも見られます。例えば、新人教育用のマニュアルを動画化する、館内の必要な場所にマニュアル閲覧用のQRコードを配置する、などがあります。
定着率向上につながる新人教育制度を
人材不足が叫ばれ離職率が高い宿泊業界にとって、人材確保・定着率の向上は喫緊の課題といえます。そのような中で、新人の教育方法も変化してきています。従来の人の手に頼るやり方から、ITの力を駆使した新しい手法を取り入れるホテル・旅館も出てきており、未経験者であっても受け入れやすい環境が整ってきています。
その一方で、経験をもとに伝えるOJTも欠かせない教育です。それぞれをうまく組み合わせて、定着率向上につながる新人教育制度を整備していければ良いですね。