ホテルで停電が起きたとき、スタッフはどのように対応すればよいのでしょうか。お客様対応や設備の影響、返金の判断、自家発電の仕組みなど、知っておくべきことは多岐にわたります。この記事では、現場で役立つ具体的な行動ポイントや声かけの例を交えながら、停電時の対応についてわかりやすく解説します。いざというときに落ち着いて対応できるよう、今のうちに備えておきましょう。
なぜホテルの停電対策が重要なのか
ホテルで働くスタッフにとって、停電時の対応は決して他人事ではありません。
突然の停電でも落ち着いて行動できるように、あらかじめ備えておくことが求められます。
災害大国・日本では停電は他人事ではない
日本では地震や台風などの自然災害が多く、停電はどの地域でも起こりうる身近なリスクです。
特にホテルは、多くのお客様が滞在中にその影響を受けるおそれがあるため、停電が発生した際の対応力が問われます。
停電が起きるタイミングは予測が難しいことも多く、突発的な対応が求められることも少なくありません。
たとえば、照明が消えたり、エレベーターが止まったりと、館内の安全性や利便性が一時的に損なわれる中で、スタッフが冷静に動けるかどうかが、お客様の安心感を大きく左右します。
停電は「いつか起こるかもしれない」ではなく、「いつ起きてもおかしくない」という意識で備えることが大切です。
対応ひとつで「信頼」も「不信」も生まれる
ホテルで停電が発生した際、お客様が最も不安を感じるのは「状況がわからないこと」です。
そんなとき、スタッフが落ち着いて説明を行い、状況を共有できるだけで、お客様の印象は大きく変わります。
「きちんと対応してもらえた」という安心感は、ホテルへの信頼につながるでしょう。
一方で、対応が遅れたり、説明が不十分だったりした場合は、不満や不信感が募り、クレームにつながるおそれもあります。
停電は避けられないトラブルですが、対応次第で評価を上げるチャンスにもなることを意識しておくと、日頃の備えにも前向きに取り組めるはずです。
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ホテルで停電が起こる2つのケースとは
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ホテルでの停電には、あらかじめ予定されているものと、突然起こるものの2種類があります。
それぞれの特性を理解しておくことで、対応のしかたや準備の考え方も変わってきます。
定期点検・法定点検などの計画的な停電
ホテルでは、法令に基づく電気設備の点検が定期的に実施されており、その際に停電を伴う場合があります。
建築基準法や消防法、電気事業法などにより、施設の安全性を確保するための点検が義務付けられており、これは避けられない停電といえるでしょう。
こうした停電は事前にスケジュールが決まっているため、スタッフ間で準備やお客様への告知が可能です。
事前に「この時間はエレベーターが止まります」などの案内を出すことで、お客様の不満を防ぐことができます。
また、点検中は非常灯の確認や、誘導経路の安全確認などを行うよい機会でもあります。
計画的な停電は、ホテル側の対応次第でスムーズに進められるため、事前準備と情報共有がポイントです。
地震・台風・落雷などの突発的な停電
自然災害などによる停電は、いつ・どこで起こるかを予測するのが難しく、ホテル側にも大きな負担がかかります。
地震や台風、落雷、大雪などが原因となり、突然停電するケースでは、スタッフ自身も冷静さを保つことが難しい場面があるかもしれません。
しかしこうした停電では、館内の設備が一斉に止まることが多く、お客様も状況が把握できず不安になりやすいため、初動対応がとても重要です。
ホテルによっては、防災訓練などで停電対応をシミュレーションしている場合もありますが、実際に現場で冷静に動けるかどうかは日頃の意識に左右されます。
普段から「もし今停電が起きたらどう動くか」を想像しておくだけでも、実際の対応に違いが出るはずです。
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ホテルが停電したら何が使えなくなる?
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停電が起きると、館内のさまざまな設備が使えなくなります。どの場所で何が止まるのかを把握しておくことで、いざというときの対応もしやすくなるでしょう。
停電中に機能しなくなる主な設備一覧
停電が起きた際、どの設備が止まるのかを事前に知っておくことで、現場での混乱を最小限に抑えることができます。
ここでは、ホテル内の主な場所ごとに停止が想定される設備を一覧にまとめました。普段意識していない設備も含まれるため、一度確認しておくと安心です。
場所 | 停止する主な設備・機能 |
客室 | 照明、空調(冷暖房)、冷蔵庫、テレビ、コンセント、温水洗浄便座、電気式給湯器(浴室のお湯)など |
フロント・共有部 | エレベーター、館内放送、自動ドア、ロビー照明、BGM機器、レジ端末、パソコンなど |
レストラン・飲食店 | 電気コンロ、IH、電子レンジ、オーブン、電気給湯、POSレジ、冷蔵・冷凍設備など |
バックヤード・厨房 | 洗濯・クリーニング機器、業務用給湯器、冷蔵庫、洗浄機、電気式換気設備など |
どこが止まるのかを把握しておけば、お客様から質問された際も落ち着いて対応できますし、館内でのスタッフ連携もスムーズになります。
普段は意識しない当たり前に動いている設備こそ、停電時の影響が大きくなるポイントです。
設備の停止がもたらすお客様の不便と不安
停電によって設備が使えなくなると、お客様にはさまざまな形で影響が出ます。
スタッフが事前にどのような不安があるかを理解しておくと、声かけや対応もしやすくなるでしょう。
以下は、停電時にお客様が感じやすい代表的な困りごとです。対応を考えるうえでの参考にしてみてくださいね。
- 「なぜ停電したのか?」という情報が得られず、不安に感じる
- 部屋が暗く、空調も使えないことで、過ごしにくさを感じる
- スマートフォンの充電ができず、連絡や情報収集に不安を感じる
- トイレやシャワーが使えない、冷蔵庫の中身が心配など、生活機能の停止による困惑
こうした不便を完全に防ぐことは難しくても、スタッフが冷静に状況を説明し、安心感を与えることは十分可能です。
まずは「何が止まって、どれくらいで復旧するのか」を自分自身が把握し、必要に応じてお客様へ伝えられるようにしておきましょう。
ホテルスタッフが停電時に取るべき行動
停電が発生したとき、スタッフがどう動くかによって、お客様の安心感やその後の混乱の大きさは大きく変わります。
焦らず、冷静に対応するためには、日頃から基本的な行動の流れを理解しておくことが大切です。
まずは安全確認と状況把握から
停電が起きたら、まずは自分自身と周囲の安全を確認することが最優先です。
暗がりでの移動は転倒や衝突のリスクがあるため、懐中電灯の位置や非常灯の点灯範囲を事前に把握しておきましょう。
次に、停電の範囲や原因を確認します。館内全体が停電しているのか、一部フロアだけなのかを確認し、上長や担当部署に速やかに報告します。
停電中は通信手段(館内電話・Wi-Fiなど)にも影響が出る場合があるため、「誰に」「どうやって」連絡を取るかを日頃から共有しておくこともポイントです。
お客様対応で大切なのは落ち着いた声がけ
停電時、お客様は「何が起きたのか」「どれくらいで復旧するのか」がわからず、不安を感じやすくなります。そうした場面では、スタッフの一言が大きな安心につながります。
たとえば、客室へ案内に行く際やすれ違ったときには、以下のような落ち着いたトーンで、状況を簡潔に伝えることが重要です。
スタッフ自身が不安そうな様子だと、お客様の不安も増してしまいます。
たとえ原因がまだ不明であっても、「確認中であること」「状況を把握していること」を丁寧に伝えるだけでも、お客様の印象は大きく変わります。
スタッフ間の連携と役割分担で混乱を防ぐ
非常時こそ、スタッフ間の連携が欠かせません。現場の判断で勝手に動いてしまうと、情報が錯綜し、かえって混乱を招くおそれがあります。
役職者や正社員がいる場合は、すぐに指示を仰ぎ、行動方針を確認しましょう。アルバイトや新人スタッフには「まずはフロントへ報告を」「無理に動かず、指示を待って」など、基本行動を周知しておくことが大切です。
また、館内を確認する人・お客様対応に回る人など、役割を自然に分担できるようにしておくと、全体の動きがスムーズになります。
ホテル停電時に返金・補償は必要?判断のポイント
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停電が発生した際に、お客様から返金や補償を求められるケースは少なくありません。
しかし、補償の有無や対応方法はホテルごとの方針によって異なるため、現場スタッフがその場で判断するのは避けるべき場面も多くあります。
ここでは、計画的な停電と突発的な停電での対応の違いについて整理しておきましょう。
計画停電は事前説明がカギ
定期点検や法定点検など、あらかじめ停電が予定されている場合は、事前にどれだけ丁寧な案内ができているかがポイントとなります。
たとえば、エレベーターや空調の停止時間、お湯が使えなくなる時間帯など、滞在中に影響が出る内容はできる限り具体的にお伝えしておくことが大切です。
こうした説明をチェックイン時や予約時にしっかり行っておけば、お客様の理解も得られやすく、滞在中のトラブルを未然に防ぐことができます。
不慮の停電時は慎重な対応が命
地震や落雷などによる予期せぬ停電では、お客様が強い不満を感じることもあります。
その場で「返金できます」「補償します」といった発言は、現場スタッフの判断で絶対に口にしないことが大切です。
特に注意したいのは、お客様の怒りに対して「前も補償したことがある」などの曖昧な返答をしてしまうことです。これはあとからトラブルに発展しやすく、ホテル全体の信用にも関わります。
対応としては、まずは丁寧に謝罪し、現在の状況や復旧の見込みについてわかる範囲で説明しましょう。
補償の有無について問われた場合には、「責任者が確認のうえ、ご案内いたします」とお伝えし、自分の判断で即答しないことが基本です。
やり取りの内容は簡単にメモを取り、上長や責任者へ速やかに共有すると、その後の対応もスムーズになります。
ホテルごとに対応方針は異なりますが、現場スタッフができるのはまずお客様の不安に寄り添い、落ち着いて対応することです。
事前にできる!ホテルの停電対策
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停電への対応は、その場で慌てて動くよりも、日頃の備えや情報共有ができているかどうかで大きな差が出ます。
ここでは、スタッフが普段から意識しておきたい停電対策について確認しておきましょう。
訓練・研修で防災意識を高める
ホテルでは消防法などに基づき、定期的な避難訓練や防災訓練が実施されていることが一般的です。
ただし、訓練が「行事のひとつ」になってしまっていると、いざというときに活かすのが難しくなります。
訓練の目的は、非常時に落ち着いて動けるようになることです。訓練の際には、非常口や非常階段の位置、懐中電灯や誘導灯の場所を自分の目で確認し、「もし今、停電が起きたらどう動くか」を具体的に想像してみることが大切です。
また、研修などで共有されたマニュアルも、時間を見つけて定期的に読み返しておくと安心です。
一度読んで終わりではなく、「現場で動く自分の姿」をイメージしながら確認することで、実践につながりやすくなります。
自家発電の導入・確認をしておこう
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自家発電装置を備えているホテルも多く、停電時にどこまで電気が供給されるかは施設ごとに異なります。
非常用の照明やエレベーター、館内放送が使えるのか、冷暖房は止まるのかなど、勤務先のホテルの復旧範囲を把握しておくことは、スタッフにとって非常に重要です。
事前に、現場の視点で次のような点を確認しておくと、実際の対応がスムーズになります。
- 非常用電源の切り替えにどのくらい時間がかかるか
- 客室内・共用部・厨房など、どこのどの設備が使えるのか
- 自分が対応する場面で何が使えないのか
もしわからないことがあれば、上司や施設管理担当に質問しておくとよいでしょう。
自分の職場がどうなっているかを知っておくことが、いざというときに落ち着いて動ける第一歩です。
停電への備えがホテルの信頼をつくる
停電は予測できないトラブルのひとつですが、対応次第でお客様に安心を届けることもできます。
「不便な状況だったけれど、スタッフがしっかり対応してくれた」という印象は、ホテル全体の信頼につながる可能性があります。
そのためにも、日頃から設備の仕組みや停電時の行動フローを理解しておくことが大切です。
完璧に対応する必要はありませんが、「落ち着いて説明できる」「状況を把握して動ける」だけでも、お客様の不安は和らぐかもしれません。
停電に立ち会う機会は少ないかもしれませんが、いざというときのために備えることが、プロとしての信頼を築く一歩となるでしょう。
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