旅館経営における現状
現在、旅館の多くが厳しい経営状態にあります。厳しい状況に陥ってしまった要因は、利用客のニーズや客層が時代と共に変化していく中、旅館側がそれに応じて変化することができなかったためといわれています。
認識すべき現状
旅館にはそれぞれ異なる歴史があり、対象としている顧客、旅館の規模や設備、地域環境も様々です。バブル経済が崩壊すると、旅館経営をめぐる環境は変化し、顧客の価値観や旅館に求めるサービスも変わりました。旅行スタイルも団体旅行から個人旅行へシフトし、個人旅行客のニーズに対応できなけば旅館業での生き残りが厳しくなります。
また、滞在客はもちろん、既存客のフォローアップ、外国人観光客の開拓も大切です。他にも、有名温泉地以外の旅館は都市観光に比べ、観光地の魅力を上げることが難しいという現実もあります。
厳しい現状を招いた理由
高度成長期からバブル期にかけて、団体旅行ブームが起こり、多くの旅館は団体向けに作られました。しかし、バブルが崩壊すると社員旅行などの団体客が減り、ファミリーやカップルなど個人単位の客が増えたため、団体旅行客を想定した旅館は個人客の集客が難しくなったのです。
もちろん、団体客と個人客では求めるサービスや設備に違いがあります。例えば、団体客であれば大人数で利用できる宴会場や広々とした大浴場が必要で、個人客の場合には貸切風呂や客室専用の露天風呂があることが望まれます。
利用客のニーズが変化したからといって、一度建てた旅館を改築したり増築したりするのは容易なことではなく、要望に応えられず時代に取り残されてしまう旅館も多いのが現実です。また、旅館は日本の文化だというこだわりから、大胆な改革に踏み切れないのも要因のひとつと言えるでしょう。
さらには、同じ客層を対象にする旅館が増えたため差別化が図れず、個々の顧客を大事にする姿勢が弱かったことも挙げられます。
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なぜ旅館の経営改善が必要か?
旅館の経営改善が叫ばれるのはなぜでしょうか。宿泊業界に起こっている状況と新しい宿泊形態について見てみましょう。
ホテルの建設ラッシュ
バブル崩壊後、宿泊業界は停滞期に入り、多くの施設が利用客層や旅行形態の変化に苦しみ、厳しい経営状態にありました。しかし、近年の外国人観光客の増加や、2020年東京オリンピックを控え、ホテルの建設が続いています。
外資系ホテルを中心としたホテルの建設ラッシュが進む一方で、地方にはその流れに乗れず、経営に困窮しているホテルや旅館が存在します。ホテルの機能的なサービスや品質に対し、旅館独自の価値を生み出し、顧客に選んでもらうことが重要です。そのため、ホテルとの差別化を図るような経営改善の必要があります。
新しいサービスの登場
日本を訪れる外国人観光客の増加に伴い、新たな宿泊サービスが登場しました。民宿やカプセルホテル、ゲストハウスなどの簡易宿所や、民泊などがその例です。これらの宿泊形態は、リーズナブルさが魅力で、一人でも利用しやすいことがメリットとして挙げられます。
簡易宿所はホテルや旅館ほど客室数や施設に制限がなく、街中などの面積の狭い場所にも設けることができるため、利便性の高い立地であることが多く気軽に利用できます。このような新しい宿泊形態が登場したことにより、ますます旅館が置かれる環境は厳しくなります。そのため、情緒的なサービスを大切にする旅館ならではの経営改善が必要です。
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旅館の生産性向上
旅館を利用するユーザーのニーズは多様化しています。経営改善に成功した旅館ではどのような取り組みがなされたのでしょうか。実際に行われた改善事例を見てみましょう。
集客力アップ
旅館の持つ強みや資源について整理し、市場調査を行うことで、売上げや集客力の向上に取り組んだ事例をご紹介します。
- ホームページの制作、充実度を上げる
- SNSを活用し、リアルタイムな情報を配信する
- メールマガジンやDMを利用してリピーターの確保につなげる
人手不足の解消
多くの旅館やホテルで、中抜け勤務が採用されています。働きやすい環境作りや休日の確保を目指し、中抜け勤務を解消し、従業員の離職率改善に努めた例をご紹介します。
- マニュアルを作成により、人材育成と業務改善を図る
- 従業員の能力を管理するスキルマップを作成し適材適所に人員を配置する
- シフト改善をして人員の無駄を省き、特定の従業員にかかる負担を軽減する
IT化・機械化
ITや機械を活用して、業務の効率化を図った事例と外国人観光客に対応した事例についてご紹介します。
- 情報伝達補助ツールを導入し、連絡のスピード改善を図る
- グループチャットを利用して、情報をリアルタイムに共有する
- ポケッタブル翻訳機を活用し、外国人観光客とのコミュニケーションを図る
変化に対応することが大切
世の中は常に変化が起きています。旅行のスタイルや顧客のニーズも時代と共に変わってきました。顧客にとっては、旅行や宿泊施設の選択肢が広がりましたが、旅館にとっては厳しい経営環境の現実があります。すでに改善に取り組んでいる旅館もあれば、状況がわかっていても動き出せない旅館もあるでしょう。
全てに万能な改善策は存在しませんが、その時々の変化に対応し改善を重ねていくことが大切です。それぞれの旅館が個性を発揮し、個々に合った方法でおもてなしの力を磨くことこそが、旅館を存続させるために有効な要素であると考えられます。