ナイトタイムエコノミーとは

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ナイトタイムエコノミーとは、夜から翌朝までの時間帯の経済活動を指す言葉です。日本では仕事帰りに居酒屋に寄るという独自文化がありながらも、0時を過ぎてからの経済活動は、海外に比べると遅れています。
インバウンドの増加に伴い、条例などの整備やコンテンツを充実させるなどの工夫でナイトタイムエコノミーを活性化しようという動きが、今大きくなっています。
海外では盛んなナイトタイムエコノミー

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ナイトタイムエコノミーが根付いている国では、どのようなコンテンツが人気なのでしょうか。治安を守るための取り組みと共に紹介します。
ロンドンはナイトタイムエコノミーの先進都市
ロンドンでは古くから、パブに集まってお酒を飲む文化があります。日本の居酒屋文化と似ていますが、ロンドンの人は職場の仲間とではなく、友人や家族同士で楽しむことが多いそうです。オペラ鑑賞などエンターテインメントも夜遅い時間から多数開演され、ロンドンはナイトタイムエコノミーの先進都市といわれています。
そんなロンドンでは、安心・安全に夜を楽しめるように「パープルフラッグ」という認定制度があります。治安の悪化などを懸念したロンドン市民の声に応え、2012年に政府が導入した制度です。
犯罪率を減らす、たくさんお酒を飲んだ人への適切な健康対策を取るなどの項目を満たした地域が認証されます。認証された都市は、観光マップに紫色の旗のマークを付けることができるのです。
また、ナイトメイヤー(夜の市長)と呼ばれる行政の担当者も居ます。ナイトメイヤーは、行政と市民の間に入り、衛生や騒音の対策などを取り仕切っています。
ニューヨークのミュージカルやコンサート
ニューヨークもロンドンと並ぶ、ナイトタイムエコノミーの先進都市です。ミュージカルやコンサート、演劇などが盛んです。
ニューヨークでミュージカルを観るといえばブロードウェイです。アメリカのドラマや映画ではよく「ヘイ、今夜ブロードウェイでミュージカルでも観ないかい?」などというセリフが出てきますよね。まるで映画にでも誘うような感覚です。ミュージカルってそんなに気軽に観るものだろうか?と疑問に思ったことはないでしょうか。
ブロードウェイでは、各所に売れ残ったチケットを集めた当日券販売ブースが点在し、多くのチケットが50%オフのお値段で販売されているそうです。そのため、誰もが気軽にふらりとミュージカルを観に行くことができるのですね。
そんなニューヨークでも、2018年にナイトイヤーが誕生しました。ニューヨークのナイトメイヤーは、ナイトスポットが市の規制に抵触しないように、あるいはより良く順守するように働きかける役割を担います。順守されない場合は強制的に閉鎖させることもあるそうです。
各国で博物館や美術館、動物園も夜間営業
今回詳しく紹介したロンドン、ニューヨークの他にも世界各国で、ナイトタイムエコノミーが増えています。
飲食やエンターテインメントの他、博物館や美術館でのアルコールドリンク付きのガイドツアー、動物園で夜行性の生き物を観察する会、その他にも教養を高めるための催し物も開かれます。
シンガポールには、夜間のみ営業する動物園があります。野生の動物は夜行性のものが多く、本来の生き生きとした姿が観察できます。そのため1994年の設立以来、平日も大変な賑わいが続いているそうです。
日本でも始まっているナイトタイムエコノミー

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海外に比べると遅れを取っている日本でも、ナイトタイムエコノミーは少しずつ浸透しつつあります。最近話題を集めている日本のナイトタイムエコノミーのコンテンツを紹介します。
ロボットのショーが見られるレストラン
歌舞伎町には、ロボットによるダンスなどのショーを観ながら食事ができるレストランがあります。昼間も営業していますが、いちばん遅いショーは21時30分からの開演です。このレストランは、総工費100億円とも言われ、カリスマ美容師がロボットのヘアメイクを担当したことも話題になりました。
そして、店内のお客様の90%が外国人という、訪日観光で大人気のスポットです。店内のアナウンスやお土産の商品名、食事メニューも英語になっており、訪れた日本人は「自分が海外旅行に来たような錯覚に陥った」と語っています。
ショーには忍者やダルマ、お神輿など外国人が喜びそうな和のテイストのロボットが多数登場するそうです。
渋谷区のナイトアンバサダー
若者の街、渋谷には人気のクラブが多数あります。そんな渋谷のナイトタイムエコノミーをますます盛り上げるための「ナイトアンバサダー」が2017年に誕生しました。アンバサダーを務めるのは、日本を代表するヒップホップ歌手です。
アンバサダーを務める歌手と共に、ラッパーやDJなどが参画する活動グループもあります。このグループでは、ナイトライフを楽しむ際のマナー啓発や、街の清掃などを行っています。
このような活動は、風営法の改正の一翼も担いました。改正前はクラブは深夜0時までしか営業できない決まりでしたが、条件付きで朝5時まで営業可能に緩和されたのです。
このグループは風営法改正に続き、日本でもナイトメイヤー制度が取り入れられることを目標に活動を続けています。
外国人向けのディープなツアー
外国人観光客には、以下のような日本のディープな夜を探索するツアーも人気があります。
- サラリーマンが晩酌する居酒屋をはしごする
・ラブホテルやホストクラブなどの独特な外観を見学する
・路地裏の小料理屋などをめぐる
日本人からすれば何でもないような光景も、海外からの旅行者には珍しく面白いものなのですね。派手な夜遊びとはまた違った面白さがありそうです。
ナイトタイムエコノミーの課題と対策

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日本ではまだ黎明期にあるナイトタイムエコノミー。活性化させるにはさまざまな課題があります。ここでは主な課題と、取り組まれている対策を紹介します。
公共交通機関の深夜運行
日本でナイトタイムエコノミーが活性化しない大きな理由のひとつは、公共交通機関が深夜は運行しないということです。飲み会やカラオケなどでの夜遊びは根付いているものの、終電時間を考えてある程度のところでお開きになることが多いですよね。タクシーという手段もありますが、料金が割高です。
ナイトタイムエコノミー先進都市のニューヨークでは、地下鉄が毎日24時間運行です。ロンドンでも、週末だけは24時間運行しています。
日本においては、観光庁が各街のニーズに合わせて路線バスや地下鉄の深夜運行や、シャトルバスの導入を検討している段階だそうです。実装されれば飲み会なども、もっと遅くまで楽しめるようになりそうですね。
労働者の確保
日本の社会全体で人手不足が深刻化している現在、夜間労働者の確保が課題です。単に労働人口が少ないだけでなく、夜間労働に対するマイナスイメージや、働き方改革に逆行しているのではないかという指摘もあります。
このような問題について観光庁は、適切な労働時間や賃金などを定めて労働環を整備し、雇用主や従業員への教育で改善し、人員を確保する方針のようです。
安心・安全の確保
健全なナイトタイムエコノミーの活性化には、安心・安全の確保が必須です。騒音防止やゴミ処理、急病人が出たときにどうするかなど、さまざまな角度から対策を考えなければなりません。医療機関や警察、民間企業と連携を取って行う必要があります。もちろん近隣住民の理解と協力も欠かせないでしょう。
すでに行われている対策としては、客引き禁止の啓発をしながらのパトロールや、ガイドとセキュリティを兼ねた巡回スタッフの配置などがあります。ニューヨークでは街の各所に無料のWi-Fiと緊急用の電話機が設置されています。
また、街中でのイベントの後はボランティアが集まってポイ捨てされたごみの清掃をする取り組みが増えています。ただし、後でごみを片づければよいというものではなく、ポイ捨てというモラルの低い行為が問題なのです。
根本から解決するためにはより強くマナーを啓発したり、取り締まりを厳しくしていく必要があるのではないでしょうか。
娯楽以外のナイトタイムエコノミー

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ナイトタイムエコノミーのコンテンツは、娯楽だけではありません。日中なかなか時間が取れない人に向けた、夜間のサービスを紹介します。
深夜営業の理美容室
深夜から夜明けまで営業する理美容室が増えています。残業後の会社員や、仕事上がりのホステスさんなどに重宝されているそうです。また、日中は寝て、夜に活動する漫画家さんや作家さんなどにも利用されるそうです。
さまざまな働き方のある現代の日本では、深夜に髪を染めたりパーマを掛けたりするのも、もはや普通のことなのですね。24時間営業の理美容室もあります。
明け方まで治療してくれる歯医者
深夜まで診察している歯医者さんも増えています。歯の治療はある程度時間が掛かるので、日中はなかなか行けないという人も多いのではないでしょうか。仕事の帰りに寄れる時間まで診て貰えるのはありがたいですね。
また、夜中に急に歯が痛くなったり、歯が折れるなどのアクシデントの際も近所にこのような歯医者さんがあれば安心です。
24時間営業のドラッグストア
大手のドラッグストアでは、24時間営業のところが多いです。風邪などで市販薬が欲しいとき、いつでも薬が手に入るというのはとても助かります。とくに夜間は、つい飲みすぎたり食べ過ぎたりで、胃の調子が悪くなることもある時間帯で、駆け込む人も多いのではないでしょうか。
また、早朝も営業しているので通勤、通学前に寄れるのも嬉しいですね。ただし、店舗によっては薬剤師が居なく、処方薬や第1種の市販薬が購入できない時間帯もあるので注意しましょう。
日本のナイトタイムエコノミーはこれからが本番です

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日本でのナイトタイムエコノミーがこれまで遅れを取っていたということは、これからどんどん発展していく可能性があるということです。海外での取り組みを参考にし、日本独自の夜の楽しみ方や利便性を見つけていきましょう。