2019年の特定技能制度の導入以降、宿泊業で外国人材を雇用する動きが広がっています。「外国人材の力を借りたい」と考える一方で、ビザの種類や採用までの流れがわからず、不安に感じる方も多いのではないでしょうか。この記事では、宿泊業で外国人材を採用・雇用するための基礎知識をはじめ、必要なビザの種類や求人募集の方法についてわかりやすく解説します。
外国人材採用が進む宿泊業界の現状と背景
日本全体で外国人材の就業が広がる中、宿泊業界でもそのニーズが高まっています。特に観光業の回復とともに、インバウンド対応を目的とした採用活動が加速しており、外国人材の活躍に期待が寄せられています。
インバウンド需要と人手不足が後押し
コンビニや飲食店など、日常生活で外国人材を目にする機会が増えています。実際、外国人労働者数は2024年10月末時点で約230万人に達し、前年比で約25万人の増加と、過去最多を更新しました。
特にベトナムをはじめとするアジア圏出身の労働者が多く、宿泊業を含むさまざまな業界で活躍しています。
宿泊業においても、インバウンド需要の回復と拡大が人材採用を後押ししています。
団体旅行や多国籍な宿泊客への対応には十分な人手が不可欠ですが、現場では深刻な人手不足が続いており、その解決策のひとつとして外国人材の活用が進んでいるのです。
外国人材は“接客の橋渡し役”にも
日本政府観光局の統計によれば、2025年3月の訪日外客数は約349万人となり、過去最高を記録しました。
特に、東アジアでは中国、東南アジアではインドネシアからの来訪者が増加しており、アジア地域全体が訪日需要を強くけん引している状況です。
このような背景のもと、宿泊施設にとって外国人材は単なる人手確保にとどまらず、訪日客と現場をつなぐ“橋渡し役”としての重要な役割を担っています。
たとえば、外国人観光客と出身地域が近いスタッフであれば、言語や文化に対する理解を活かした接客が可能であり、よりスムーズなコミュニケーションが期待できるからです。
こうした強みは、国際的なホスピタリティが求められる宿泊業において、大きな価値を発揮するといえるでしょう。
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ホテルが外国人材を採用するメリットとは?
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宿泊業は、外国人材の就労先としても注目されており、近年ではホテルや旅館などで働く姿を目にする機会が増えています。ここでは、外国人材を雇用するメリットを確認しておきましょう。
人手不足の解消につながる
日本人従業員だけではまかないきれない労働力を、外国人材の雇用によって補うことができます。これは、人手不足が深刻化している宿泊業界にとって非常に大きなメリットです。
人材が不足すれば、サービス品質の低下を招き、宿泊客の満足度が下がるおそれもあります。結果としてリピーター離れや予約数の減少にもつながりかねません。
外国人材の採用は、人手不足の解消にとどまらず、サービス提供体制の安定や顧客満足度の向上にもつながる可能性があります。
言語対応力を強化できる
外国人材の中には、日本語でのコミュニケーションが可能なだけでなく、母国語や英語にも堪能な人材も多くいます。
そのため、言語の壁を感じやすい外国人宿泊客への対応がスムーズになり、文化や習慣の違いによるトラブルの回避や、より丁寧な接客が可能となります。
このような対応力は、宿泊体験の満足度にも直結し、施設への評価や口コミ向上、さらには集客効果にも貢献することが期待されます。
多様な価値観が職場に刺激を与える
外国人材の中には、家族を支えるために来日し、強い目的意識を持って働いている人も少なくありません。そうした背景から、仕事に対する向上心や責任感の強さが感じられることもあります。
そのような姿勢は、日本人スタッフにもよい刺激となり、職場全体のモチベーション向上や意識改革につながることもあります。
さらに、異なる文化的背景を持つ人材と一緒に働くことで、多様性を尊重した新たな発想やサービスの改善が生まれる可能性もあります。
結果として、外国人材の波及効果は、単なる労働力の補充を超え、ホテルや旅館全体の成長や発展に貢献することが期待されるでしょう。
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ホテルの外国人採用マニュアル|採用前に知っておきたい基本知識
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「ホテルで外国人材を雇用したい」と思っても、日本人を採用する場合とは異なり、ビザや在留資格などの制度に関する理解が不可欠です。ここでは、外国人材を雇用する上で知っておきたい基本的な知識を整理して紹介します。
ビザ(査証)と在留資格の違い
まず押さえておきたいのは、「ビザ」と「在留資格」は同じものではないという点です。混同しがちですが、法的には次のような違いがあります。
ビザ(査証)
入国・滞在の「推薦状」。日本大使館や領事館が海外で発給し、入国可否を判断するための書類。
短期滞在・長期滞在・医療滞在の3種がある。
※延長は原則不可
在留資格
実際の活動内容に応じて日本国内で与えられる許可。
入国時に空港などでビザ内容に基づいて出入国在留管理庁が付与。
「技術・人文知識・国際業務」などの種類があり、いわゆる就労ビザはこちらを指す。
一般に「ビザが必要」と言われる場合、実際には在留資格の取得や変更が必要であるケースがほとんどです。
外国人材採用から雇用までの基本的な流れ
外国人材を雇用する際には、応募者が正しい在留資格(就労ビザ)を持っているかどうかの確認が欠かせません。特に「在留中だが、業務内容に合った在留資格をまだ取得していない」ケースでは、以下のようなステップが必要です。
在留中/就労ビザ未取得の外国人材を雇用する場合
- 1.求人募集の開始
- 2.書類選考と、ビザ取得見込みの確認
- 3.面接の実施
- 4.内定の通知
- 5.雇用契約書の作成
- 6.出入国在留管理庁へ「在留資格変更許可申請」
- 7.就労ビザの発給
- 8.雇用の開始
最も注意したいのは、採用内定を出してもビザが取得できなければ雇用できないという点です。
また、在留資格認定証明書がある場合は、最短で5営業日程度でビザが発給されますが、提示がない場合は1〜3カ月程度かかる可能性があります。スケジュールに余裕を持った対応が必要です。
適切な在留資格がなければ法律違反に
就労ビザが失効したまま働き続ける、または不適切な在留資格で勤務させると、外国人材本人が「不法滞在」となり、雇用主は不法就労助長罪に問われるおそれがあります。
さらに、「資格外活動」や「留学生アルバイト」などでは、勤務時間や職種に制限があるため、在留資格の内容を正しく把握しなければ、意図せず法令違反に陥るリスクもあります。
外国人材採用に必要なビザの種類とは?【宿泊業編】
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外国人材を雇用するためには、業務内容に応じた適切な在留資格(就労ビザ)が必要です。
職種や業務の専門性によって取得できるビザは異なり、条件を誤ると不法就労とみなされるリスクもあるため、雇用側としても最低限の知識を持つことが求められます。
現在、日本で外国人が就労または長期滞在をするために必要な在留資格(ビザ)は、大きく以下の7つのカテゴリに分類されます。
- 高度専門職ビザ
- 就業ビザ
- 一般ビザ
- 特定ビザ
- 起業(スタートアップ)ビザ
- 外交ビザ
- 公用ビザ
これらのカテゴリーには、合計で29種類以上の在留資格が含まれており、すべてを把握するのは現場担当者にとって現実的ではありません。
そのため、自社のホテルの雇用に関係する在留資格のみでも把握しておくことが重要です。
ホテル業務でよく使われる外国人向けビザ5選
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ホテルが外国人材を雇用するには、業務内容に適した在留資格(ビザ)の確認が必要です。特に宿泊業で利用されることの多い代表的なビザは、以下の5種類です。
特定技能(1号)ビザ|就業ビザ
2019年4月に新設された、学歴や実務経験が不要なビザで、人手不足が深刻な宿泊業、外食業、介護など14業種に対応しています。
日本語能力試験(JLPT)N4以上、または日本語基礎テストの合格が必要で、分野ごとの特定技能試験にも合格することで取得可能です。
このビザにより、従来の制度では認められなかった現場の単純労働(ベッドメイク、清掃、接客補助など)にも従事可能になります。
ただし、在留期間は最長5年までで、更新不可/家族帯同不可のため、長期雇用や幹部育成には向きません。
技術・人文知識・国際業務|就業ビザ
外国人の正社員採用で最も一般的なビザで、フロント業務(多言語対応)や広報、企画、通訳、貿易実務など、ホワイトカラー的な職務に対応します。
取得には、大学・専門学校卒業レベルの学歴や、3年以上の実務経験が求められる場合があります。
なお、許可された職務以外の作業(客室清掃など)に従事させることは違法となり、違反すれば事業者が書類送検されるリスクもあります。
留学ビザ(+資格外活動許可)|一般ビザ
外国人留学生は「留学」ビザを取得して来日しますが、そのままでは就労できません。そのため、留学生がアルバイトを行う場合は「資格外活動許可」が別途必要です。
資格外活動許可があれば、学業に支障のない範囲で週28時間以内の勤務が可能です。長期休暇中(春休み・夏休みなど)は、1日8時間までの勤務が認められます。
ただし、教育機関によっては就労時間に独自の上限を設けていることもあるため、確認が必要です。
家族滞在ビザ(+資格外活動許可)|一般ビザ
「家族滞在」ビザは、駐在員や留学生などの帯同家族に発給されるもので、就労を目的とした在留資格ではありません。
そのため、就労するにはこちらも「資格外活動許可」が必要です。
就労可能な内容や時間は「留学ビザの資格外活動」と同様で、週28時間以内/長期休暇中は1日8時間までが上限です。
永住者・日本人の配偶者等・定住者 など|特定ビザ
「永住者」「日本人の配偶者等」「永住者の配偶者等」「定住者」といった特定ビザは、就労制限のない在留資格です。
これらは身分系ビザと呼ばれ、日本との結びつきが強いとみなされているため、職種や時間に関係なく自由に働くことができます。
ホテルの職種別|必要な在留資格一覧
ホテルでは、フロント、清掃、調理、事務など多様な職種が存在し、それぞれに適した在留資格(ビザ)が異なります。
適切なビザを取得していない状態で就労させると、不法就労とみなされるリスクもあるため、職種別に必要な在留資格を把握することが重要です。
職種(業務内容) | 必要な在留資格(ビザ) | 主な注意点 |
---|---|---|
フロント業務 (接客・案内・会計など) |
宿泊分野特定技能(1号) 技術・人文知識・国際業務(※通訳業務のみ) |
技人国は通訳等に限定。接客全般は特定技能が基本。 |
ハウスキーピング (客室清掃・ベッドメイク) |
ビルクリーニング分野特定技能(1号) | 一般の就労ビザでは従事不可。技能試験合格が必要。 |
レストラン補助業務 (皿洗い・配膳・補助) |
外食分野特定技能(1号) 飲食料品製造分野特定技能(1号) |
単純労働のため、特定技能のみ対応。業務逸脱に注意。 |
専門的な調理業務 | 技能ビザ 外食分野特定技能(1号) |
技能ビザは10年以上の実務経験が必須。職種に制限あり。 |
バックオフィス (経理・企画・広報など) |
技術・人文知識・国際業務 | 専門分野と学歴・専攻の一致が求められる。 |
留学生のアルバイト | 留学ビザ+資格外活動許可 | 週28時間以内/長期休暇中は1日8時間以内 |
表のとおり、ホテル業で採用可能なビザには職種ごとの制限があります。該当しないビザで就労させないよう、採用時に十分確認しましょう。
外国人材採用の求人方法|ホテル業におすすめの5つの手段
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外国人材を採用したいと考えても、適切な募集方法を選ばなければ、希望する人材に出会うことは難しいかもしれません。
ここでは、ホテルや旅館が外国人材を採用する際に活用しやすい、代表的な求人募集の方法を5つ紹介します。
外国人専門の求人サイトを活用する
在日外国人に特化した求人プラットフォームや就職支援サイトを活用する方法です。
多くの場合、日本語・英語・母国語など複数言語に対応しており、外国人材の登録率も高いため、外国人雇用のノウハウが蓄積されている媒体が多いのが特長です。
複数の求人サイトを比較し、実際に他ホテルでの活用実績や、求める人材とのマッチ度を基準に選ぶとよいでしょう。
宿泊業団体の求人サイトを使う
日本ホテル協会、全日本ホテル連盟、日本旅館協会、全国旅館ホテル生活衛生同業組合連合会などの業界団体に加盟している場合、団体が運営する求人サイトに無料で求人情報を掲載できる制度があります。
宿泊業に特化した求人サイトであるため、職種の理解がある応募者とのマッチングが期待でき、採用活動のコストを抑えられる点もメリットです。
専門学校や大学から紹介を受ける
新卒採用や留学生の採用を検討している場合には、専門学校や大学・大学院などの教育機関に直接相談する方法があります。
外国人学生の受け入れに積極的な学校では、キャリアセンターや就職課が求人紹介に対応しており、適性の高い学生を紹介してもらえる可能性があります。
学業成績や出席状況、語学力なども加味して選抜された人材に出会えるため、信頼性の高い採用ルートといえるでしょう。
人材紹介会社に依頼する
外国人材の紹介に対応している人材紹介会社に相談することで、即戦力となる外国人材と出会える可能性があります。
日本での勤務経験がある人や、日本語能力の高い人材が登録していることも多く、限られた時間の中で精度の高いマッチングが行えるのが特長です。
ビザや労務関連の相談にも対応している会社であれば、採用後の手続きまでスムーズに進められるケースもあります。
宿泊業の人材紹介会社に相談するSNSや外国人向けコミュニティで発信する
SNSや、外国人向けコミュニティサイトを使って情報発信する方法もあります。
求人メディアでは出会えない層や、積極的に仕事を探していない潜在的な求職者にアプローチできるのが魅力です。
ただし、外国語での発信が必要になる場面もあるため、翻訳対応ができるスタッフや、すでに在籍している外国人材の協力を得ながら運用するのが現実的です。
出典:「外国人雇用状況」の届出状況まとめ(令和6年10月末時点)/厚生労働省出典:訪日外客数(2025年3月推計値)/日本政府観光局出典:就労や長期滞在を目的とする場合/外務省
外国人材の採用で、ホテルの人手不足を解決する一歩を踏み出そう
外国人材の採用には、ビザの種類や手続きなどに不安を感じる場合もありますが、基本的な知識と流れを理解していれば、実際の採用は想像以上にスムーズに進められることが多くあります。
宿泊業界では、今後インバウンドの回復やサービスの多様化が進むなかで、人材確保の重要性が一層高まると考えられています。
外国人材の活用は、人手不足への対応だけでなく、接客力や多言語対応力の強化といった面でも大きな可能性を持っています。
採用方法に悩んでいる場合や、適切な人材と出会えるか不安な場合には宿泊業専門の人材サービス・おもてなしHRの活用をご検討ください。
採用手続きに関する情報提供はもちろん、外国人求職者とのマッチングや求人掲載のサポートも行っています。外国人材の採用を前向きに進める一歩として、お気軽にご相談くださいね。
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