ホテル・旅館のベテラン人材を活かす再雇用制度
再雇用制度とは定年退職を迎え、いったん退職した人を再び雇い入れる制度のことです。
2013年に公的年金の受給開始年齢が、60歳から65歳に引き上げられました。60歳で定年退職となる企業に務めていた場合、5年間もの間収入がゼロになっては生活が立ち行かなくなりますよね。
そこで定年を迎える正社員が再雇用を希望する場合、65歳までは必ず再雇用しなければならないという再雇用制度ができました。
国が掲げる「一億総活躍社会の実現」にも繋がる取り組みですが、再雇用制度の性質を企業と従業員の双方が理解していなかったがためにトラブルに発展することもしばしばあります。
再雇用のメリット・デメリットや、再雇用する際に注意したいポイントについて見ていきましょう。
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ホテル・旅館でベテランを再雇用するメリット
ホテル・旅館の中には人材の定着率が低く、経営が厳しいという所も少なからずあるでしょう。そんなピンチを救ってくれるのは、一度定年を迎えたベテランの人材かもしれません。再雇用によってホテル・旅館が得られるメリットを見ていきましょう。
人手不足の緩和
宿泊業界は、業界全体が深刻な人手不足の問題を抱えています。そんな状況でホテル・旅館のことを知り尽くしたベテラン従業員が、定年退職職場から居なくなるのは大きな痛手になるでしょう。
再雇用制度で、定年退職後も働いてもらうことで人手不足が緩和されます。
採用コスト・育成コストの削減
新たな人材を採用するには、莫大なコストが掛かりますよね。企業説明会を開いたり、何度も面接を重ねてようやく人材を確保した後には育成コストも掛かります。その点、再雇用であれば企業説明会や採用試験のコストは不要です。
また、宿泊業界は、残念ながら離職率が非常に高い業界です。しかし再雇用なら、実務経験を積んだ本人からの希望があってのことなので、イメージと現実のギャップに悩むことはあまり無いはずです。
高いコストを掛けて新規採用・育成を行い、一人前に育つ前に辞めてしまうリスクを考えると、再雇用は採用・育成コストの削減に非常に有効なのではないでしょうか。
人件費の削減
責任のある役職の社員であっても、再雇用後は役職を外れて契約社員などの雇用形態とすることが一般的です。
負担の少ない業務を任せることで、定年退職前の5割~7割程度の賃金で働いてもらうことができるため、人件費の削減に効果的です。
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ホテル・旅館でベテランを再雇用するデメリット
再雇用制度は、宿泊業界にとってメリットが大きいようですが、把握しておくべきデメリットも存在します。どのようなことがデメリットになるのでしょうか。
労働条件に対する不満を持たれやすい
再雇用後は非正規雇用で負担の少ない業務を任せることで賃金を抑え、人件費を削減できることがメリットのひとつでしたよね。しかし、再雇用された従業員からは不満を持たれやすい部分です。
理不尽に賃金を下げられたとしてトラブルに発展し、裁判沙汰になったケースもあります。
若手社員の士気が下がりやすい
定年退職前に役職に付いていた従業員を「特別社員」などの名称とし、実質的な役割は管理職として再雇用する企業もあります。
再雇用の従業員が、長年培ったスキルを活かしきることができる方法ですが、若手社員の士気が下がりやすい点がデメリットです。出世を望んでもポストが空かず、転職の原因になるかもしれません。
新たな役割になじみにくい
再雇用後、定年退職前とは違う業務を任せるとなると、さまざまな問題が浮上してくる可能性が考えられます。
新しい仕事を覚えられない・配属先に溶け込めない・役職者だった頃とのギャップによって、対人関係に摩擦が生じるなど、労働生産性の低下を招く事態に陥る可能性があるのです。
まだまだ働けるとはいえ、定年を迎えているともなれば、ある程度の高齢者ですよね。再雇用者本人の心づもりと、周囲の理解が必要なのです。
正社員の希望者は必ず再雇用しなればならない
再雇用制度は、正社員からの希望があれば、65歳までは必ず雇うことが義務付けられています。
「せひ再雇用したい!」と思える優秀な従業員でなくても、本人が希望すれば応じなければならないのですね。これからの時代は、その点を考慮して人材の育成に取り組む必要があるでしょう。
ホテル・旅館でベテランを再雇用する際の注意点
再雇用後に不満を持たれたり、トラブルが発生するのを防ぐためには注意したいポイントがあります。しっかりと把握して取り組みましょう。
労働条件をきちんと話し合う
再雇用後に不満を持たれることが多いのは、労働条件です。
特に多いのは、労働時間は定年退職前と変わらないのに手取りが半分になったなど、賃金に関することです。非正規雇用で負担の少ない業務を担当するにしても、予想以上に年収が減れば、大きな不満を抱くのも当然でしょう。
また、割り振られた役割に不満を感じる人も居ます。再雇用後の賃金・業務内容・各種手当といった労働条件については事前によく話し合い、双方が納得して契約を結ぶことが重要なのです。
同一賃金・同一労働を守る
再雇用のメリットのひとつとして「人件費を削減できる」ということを解説しましたが、それには合理的な理由が無くてはなりません。
体力を考慮した上で業務負担を減らし、それに見合った賃金にすることは可能です。しかし、定年退職前と全く同じ業務を任せるのに「再雇用だから」「高齢だから」と言う理由で安い賃金にすることはNGです。
また、定年退職前とは別の業務を任せるにしても、根拠無く低すぎる賃金にするのはトラブルのもとです。2015年には定年退職後にパート社員として勤務した際の賃金が、定年退職前の約25%にまで下がったことを不服とした裁判が起こり、最終的には企業側が敗訴となりました。
最低賃金を守ることはもちろん、きちんとした根拠のある賃金で契約しましょう。
有給休暇の付与
有給休暇の年間付与日数は勤続年数によって変動しますよね。再雇用の場合、一旦、退職するため勤続年数がリセットされるのでは?と考える人も居るのではないでしょうか。
しかし再雇用では雇用契約が継続しているとし、勤続年数は通算することを押さえておきましょう。ただし、パートタイム勤務などで正社員時よりも勤務日数が減る場合は、そちらに合わせた日数を付与します。
退職金を支給するタイミング
再雇用が決まっている従業員へ退職金はいつ支給するべきなのでしょうか。
注意したいのは、退職金請求権の時効です。労働基準法第115条では5年間と定められています。最終的な退職のタイミングで支給するとなると、この時効が成立している場合があり、余計なトラブルを招く恐れがあるのです。
トラブルを回避し、従業員に損をさせないためには、最初の退職時に支給するのがベストです。また、最終退職時に改めて退職金が有るのか、無いのかについても事前に説明してくださいね。
厚生年金の受給に注意
厚生年金の受給が始まる年齢の再雇用者については、給与額に注意が必要です。
厚生年金の加入条件を満たす労働で、厚生年金額と給与を合わせた金額が一定以上になると、厚生年金の一部もしくは全部の支給がストップされるためです。
再雇用後も高い賃金で雇うことが、必ずしも労働者の利益になるとは限らないのですね。再雇用後の労働条件を決める際は、この点もふまえて相談しましょう。
再雇用制度を正しく理解・活用しよう
再雇用は収入の減少が伴うことが多く、トラブルに発展するリスクもあります。しかし、正しく理解して活用すれば、人手不足にあえぐ宿泊業界にとって、大きな助けになるはずです。
今回解説したメリット・デメリットや注意事項を参考に、従業員がいくつになっても働ける職場づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。