カスハラとは
近年、接客業に従事する方を悩ませている問題の一つに「カスハラ」があります。カスハラは「カスタマーハラスメント」の略で、お客様が企業の従業員やサービス提供者に対して、過剰で理不尽な要求をしたり不当な言動をしたりすることを指します。
カスハラが注目される背景
「お客様は神様」という言葉を見聞きしたことがある方は多いのではないでしょうか。
これは、「お客様を大切に思って仕事をする」という、サービス提供者の心構えの1つとして言われているものです。
しかし、「お客様は神様だから、我慢して尽くさなければならない」という誤った解釈が広まり、お客様の立場の強さを表現する言葉として使われることも多くあります。
これにより、お客様が何をしても許されるという風潮が広がったことが、カスタマーハラスメントを引き起こす原因の1つとも言われています。
また、SNSの普及によって不満やクレームを公開されやすくなったことで、企業がお客様の要求に過敏に対応せざるをえなかったり、顧客満足度向上を重視するあまりにサービスが過剰になったりするなど、企業側の対応がカスハラを助長することもあるようです。
カスハラとは?パワハラとの違い
カスハラはパワハラと混同されることもありますが、以下の点で異なります。
カスハラ | パワハラ | |
加害者 | 顧客等 | 上司や同僚 |
被害者 | 従業員 | 部下や同僚 |
権力関係 | 顧客と従業員の関係 | 上司と部下、同僚間の関係 |
パワハラは、地位や権力を利用してほかの従業員に不適切な発言や行動をすることで、明確な権力関係があることで発生するのが一般的です。
一方、カスハラには明確な権力関係はありません。本来、お客様と従業員の関係は対等なものです。
しかし、お客様は商品やサービスを購入する立場であるため、サービス提供者に対して心理的な優位性を持つことがあります。それがカスハラにつながるケースが多いのです。
カスハラの影響
カスハラは、サービス提供者に以下のような影響を与えます。
- 精神的ストレス
カスハラを受けた従業員は精神的なストレスを抱えることが多く、不安や恐怖、抑うつ状態などの症状が現れることがあります。
- 身体的症状
精神的なストレスが長引くと、頭痛や腹痛、倦怠感などの身体的症状が現れることがあります。
- 離職者の増加
カスハラによって心身にストレスを抱えることで、従業員のモチベーションが低下します。これにより、離職率が増加することがあります。
カスハラによって従業員がダメージを受ければ、企業全体の士気が下がり、サービスの質が低下する恐れがあります。
サービスの質が落ちたことで顧客満足度が低下するようなことがあれば、カスハラが増加するだけでなく、信頼関係を築いてきた大切なお客様を失うことになってしまうかもしれません。
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カスハラの種類と例
カスハラにはどのような行為が含まれているのでしょうか。カスハラの種類と例を紹介します。
ネット上での誹謗中傷
近年増えているのが、ネット上での誹謗中傷によるカスハラです。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 匿名掲示板やSNSで、従業員の個人情報を晒したり、悪口を書いたりする
- 商品やサービスに関するクレームを従業員個人に対して向け、誹謗中傷する
SNSは相手の顔が分からないことが多くあり、顔が見えないからこそエスカレートする傾向があります。
誤った情報が拡散されて、被害が大きくなるということもあります。
長時間にわたる拘束
お客様が、理不尽な理由で従業員を長時間にわたって拘束する行為もカスハラです。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- クレーム対応や商品説明を閉店時間後まで延長させる
- 従業員に休憩を取らせない
- 私的な用事を頼む
要求が通るまで店内に居座って困らせようする明らかな迷惑行為だけでなく、無理に会話を引き延ばして電話を切らないなどということもあります。
カスハラへの対応が長引くことで、ほかのお客様への対応が阻害されてしまいます。
暴言・暴力による攻撃
暴言や暴力を受け、身体的、精神的に傷つく行為は、悪質なカスハラの1つです。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 暴言を浴びせたり罵倒したりする
- ぶつかったり、殴ったりなど身体的な攻撃をする
- 物を投げつけたり壊したりする
お客様が感情的になっている場合、暴言を発したり暴力を振るったりするケースがあります。
サービス提供者として感情に寄り添う姿勢は大切ですが、身の危険を感じるような場合は避難することも必要です。
金銭や金品の要求
不当な理由で金銭や金品を要求する行為もカスハラに該当します。
具体的には、以下のような行為が挙げられます。
- 無料でサービスの提供を要求する
- 商品の値引きや返金を要求する
- 賄賂や謝礼を要求する
商品の小さな傷を見つけて無料にしろと言ったり、クレームの解決策として金銭を要求したりするケースもあります。
金銭や金品の要求は、1度応じてしまうと繰り返されることが少なくありません。根拠のない要求や不当な要求には応じる必要はありません。
度を超えた要求
常識的に考えて度を超えた要求をする行為は、エスカレートすることで悪質なカスハラになることがあります。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 無理な納期を要求する
- 細かい注文や変更を何度も要求する
- サービス内容をお客様の都合で変更しようとする
提供可能な範囲を超えたサービスを要求することだけでなく、土下座や謝罪文の提出、担当者の辞職などの要求もあります。
「応じればカスハラが収まるかも……」と思ってしまいそうですが、できないこと、する必要のないことは、しっかりと線引きしておくことが重要です。
プライバシーの侵害
クレームや暴言などのように実害が判断しにくい面がありますが、従業員のプライバシーを侵害する行為もカスハラです。
具体的には、以下のような行為が該当します。
- 許可なく写真を撮影したり、動画を撮影したりする
- 連絡先情報を勝手に取得したり、SNSでつながろうとしたりする
- プライベートな内容を無理やり聞き出そうとする
店舗の外で待ち伏せしたり、接客中に連絡先を聞き出そうとしたりと、仲を深めたいというような個人的な感情からこのような行為に及ぶお客様がいます。
お客様だから無下にできないと思わず、はっきりと断わる必要があります。
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カスハラ被害を受けた場合の対処法
悪質なカスハラは犯罪行為に該当します。「お客様の要求に応えなければならない」「お客様に満足していただかなければ」と思う必要はありません。カスハラ被害を受けた場合は、適切に対処するようにしましょう。
冷静に対応する
カスハラに対応する場合は、焦らずに冷静に対応することが重要です。サービス提供者がおびえる姿や慌てる姿は、状況をさらに悪化させてしまいます。
お客様の要求が明らかに度を越えたものなのであれば、毅然とした態度で断りましょう。
ただし、相手を刺激しないことが重要です。口調や表情がきつくならないように注意してください。
暴力や暴言などで身の危険を感じるような場合は、即座に周囲に助けを求めましょう。
記録を取る
カスハラが長期化しそうであったり、同じお客様からのカスハラが繰り返されたりするようなことがあれば、日時・場所・相手の発言内容・状況などをできるだけ具体的に記録しましょう。
対応中にメモを取るのが難しいようであれば、録音や録画も有効な手段です。
証拠として残すためだけでなく、自身の記憶整理にも役立ちます。
上司や先輩に相談する
カスハラを受けた場合は、必ず上司や先輩などに状況を報告して、適切なアドバイスやサポートを受けるようにしましょう。
カスハラを1人で抱え込む必要はありません。
客観的な意見をもらうことで、今後の対応を考えることができ、精神的な負担が軽減されます。
企業に相談窓口があれば利用するのもよいでしょう。専門家からアドバイスをもらうことで、早期解決につながるかもしれません。
必要に応じて法的措置を取る
長期化する場合や明らかな被害がある場合は、警察や裁判所を介して解決するのも1つの方法です。
悪質なカスハラは犯罪行為です。法的措置を取ることで、解決する場合があります。
しかし、犯罪への当然の対応だとしても、法的措置を取ることで企業イメージに影響が出ることがあります。法的措置については、弁護士などの専門家に相談しながら慎重に判断してください。
カスハラにストレスを感じているなら転職もあり!
カスハラは、サービス提供者の心身に大きな影響を与えるものです。
「お客様に喜んでいただきたい」「お客様とのコミュニケーションが楽しい」と感じて、接客業にやりがいを持っていたのに、1度のカスハラで接客するのが怖くなってしまったということがあるかもしれません。
カスハラがあったことで仕事を続けることに不安を感じているようなことがあれば、転職するのもよいでしょう。
接客経験をいかしたいという方には、ホテルや旅館の宿泊業界がおすすめです。
宿泊業界はクレームが多いと言われることがありますが、だからこそ対応方法が明確になっていたり、助けてくれる上司や先輩がいたりすることが少なくありません。
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