農泊とは
農泊とは、農山漁村に宿泊してその地域の自然や文化を体験したり地域の人たちと交流したりする農山漁村滞在型旅行のことです。2016年3月に策定されて以降、2023年度末の時点で全国656の地域で実施されています。
この施策が始まった背景には、新型コロナウイルス感染症の影響や人口・経済活動の大都市への過度な集中、大都市から農村への人口分散などさまざまな理由があるようです。
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【農泊の補助金】「農山漁村振興交付金」の目的や概要
地方への人の流れを加速化させつつ持続的低密度社会を実現するために、農林水産省では「農山漁村振興交付金」という補助金制度を実施しています。ここでは、この交付金の目的や概要を解説します。
農山漁村振興交付金の目的
農林水産省が農山漁村振興交付金を実施するのは、農山漁村の振興と活性化を図るためです。農山漁村のような地方は、都市部と比べて少子高齢化・人口減少が顕著に進行しています。
この交付金を通じて地域資源を活用したプロジェクトを支援し、地域経済の活性化や住民の生活環境の改善を促進することを目的としています。
農山漁村振興交付金の概要
農山漁村振興交付金の支援の対象となるのは、地域の農業者や漁業者、住民団体、自治体などです。なお、この交付金は以下のような取り組みを行う際に活用できます。
- 地域経済の活性化
- 雇用創出・定住促進
- 地域資源の活用
- 生活環境の改善
- 地域コミュニティの維持
また、農山漁村振興交付金は事業内容により以下のように細かく分類されます。
この中で農泊が該当するのは、「農山漁村発イノベーション対策」です。
次の見出しで、農山漁村振興交付金の「農山漁村発イノベーション対策」について詳しく解説していきます。
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【農泊の補助金】農山漁村発イノベーション対策の概要
農泊は農山漁村振興交付金の農山漁村発イノベーション対策のうち、「農泊推進型の推進・整備事業」に分類されます。
なお、事業内容によって上限や交付率が異なります。ここでは、それぞれの事業の交付率などを確認しておきましょう。
農山漁村発イノベーション推進事業(農泊推進型)
農泊推進事業等
農泊の推進体制整備や観光コンテンツの開発、Wi-Fi等環境整備、人材額補などに対する支援です。
【事業期間】上限2年間
【交付率】
1)農泊地域創出タイプ:定額(上限500万円/年)
2)農泊地域経営強化タイプ:定額(上限250万円※年基準額×事業期間)
3)人材活用事業:定額(研修生の場合は上限250万円、専門家の場合は上限650万円)
広域ネットワーク推進事業
国内外への戦略的なプロモーション、課題を抱えている地域に専門家の派遣・整備、ニーズ調査などの支援です。
【事業期間】1年間
【交付率】定額
農山漁村発イノベーション整備事業(農泊推進型)
古民家などの滞在施設の整備
農泊を推進するために必要な古民家などを活用した滞在施設、一棟貸し施設、体験・交流施設などの設備を改修するための支援です。
【事業期間】上限2年間
【交付率】1/2(上限2500万円/事業期間※)
※遊休資産改修の場合:上限5000万円、市町村所有の遊休資産を宿泊施設として改修する場合:上限1億円
農家民泊などの小規模改修
農家民泊などの小規模改修をするための支援です。
【事業期間】1年間
【交付率】1/2(上限1000万円/経営者かつ5000万円/地域、農家民宿へ転換する場合は上限100万円を加算)
【農泊の補助金】農山漁村振興交付金の申請の流れ
農山漁村振興交付金の公募は毎年2月頃に開始されるため、2024年度分に関してはすでに終了しています。ここでは、2024年度の情報をもとに農山漁村振興交付金の申請の流れを確認しておきましょう。
必要書類の準備および提出
農山漁村振興交付金事業実施提案書を用意し、賃金や旅費、委託料などの具体的な経費に関わる必要事項を記入します。さらに、提案書の協定の内容を示す文書や予算・決算に関わる資料なども添付する必要があります。
これらの書類がすべて揃ったら、提出期限内に応募者の事務所が所在する地域の農政局に提出します。なお、提出期限は公募を開始してから3週間程度となっているので、必ず期日までに提出するようにしましょう。
提案書の選定
提出した農山漁村振興交付金事業実施提案書が農政局に届き次第、選定審査委員会による審査が順次行われます。
提案書や書類の内容について、必要に応じてヒアリングなどを含めた審査が実施されるようです。これらの審査結果をもとに交付金の交付候補者が決定します。
選定結果の通知
選定審査委員会による農山漁村振興交付金の審査結果が出たら、応募者に対して選定結果の通知が行われます。
なお、この通知は交付候補者となったことが知らされるものなので、交付金の交付には別途手続きが必要です。
交付に必要な手続き
選定結果の通知を受けたら、農山漁村振興推進計画および事業実施計画を事業承認者へ1カ月以内に申請し、その承認を受ける必要があります。
また、振興推進計画などを承認するにあたり、対象経費を確認するための資料の添付もしなければなりません。
交付金の支払い手続き
振興推進計画などの承認が完了したら、交付候補者に承認された事業に割り当てる振興交付金の額が通知されます。
割り当てられた農山漁村振興交付金の額をふまえて速やかに交付申請書を作成し、農政局に提出します。交付申請書の審査で適切と認められると、交付候補者に対し交付決定通知が行われます。
この交付決定通知日以降に、振興推進計画などに記載された振興交付金の対象事業を開始できるようになります。
農泊の活用事例
ここでは、農泊に成功した農山漁村地域の事例をいくつか紹介します。
北海道阿寒郡鶴居村
北海道東部・釧路管内のほぼ中央部に位置する鶴居村では、釧路湿原やタンチョウなどの自然資源と、主産業である酪農による乳製品などを活かした農泊事業を推進しています。
また、英語表記のWebサイトやSNS、海外に出向いて現地でPRをするなどのインバウンドを意識した情報発信、貸別荘などの宿泊者をターゲットにした特産品セットの配達販売などを展開。村内全体が連携する滞在型観光プログラムを構築しています。
茨城県かすみがうら市
茨城県の県南地域に位置するかすみがうら市では、レンコン掘り体験や霞ヶ浦産の天然うなぎ料理を提供するなどの地域資源を活用した農泊体験プログラムを実施しています。
農産物の収穫とサイクリングを組み合わせた体験観光事業を実施したことにより、地域における新たな価値の創造と関係人口の創出を実現しました。
京都府伊根町
京都府の丹後半島の北東部に位置する伊根町では、宿泊施設や飲食店などの観光関連施設や生産者、金融機関など多分野の事業者と連携した農泊を推進しています。
生活の一部を切り取った体験として、個人宅での小さな漁業・もんどり体験や漁具づくり体験、刺身づくり体験などを提供しています。
農林水産省の補助金・農山漁村振興交付金を活用して農泊に取り組もう
都市部に偏りがちな観光を地方創生につなげていくためには、地方の観光資源の魅力を高めていく農泊の取り組みが不可欠です。そんな農泊を成功させるためには、宿泊に付帯する体験型コンテンツなどを充実させる必要があります。
農林水産省では、農泊に利用できる補助金として農山漁村振興交付金を用意しています。農泊を取り入れることを検討している事業者の方は、利用してみてはいかがでしょうか。
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