ホテルと旅館の違いを旅館業法から読み解く
日本人がどこかへ旅行に行こうと考えたとき、宿泊施設として真っ先に思い浮かべるのがホテルか旅館でしょう。ではこのホテルと旅館、どう違うのか考えてみたことはありますか?
日本には、ホテルや旅館についての取り決めを記した法律があります。それが「旅館業法」です。
ホテルと旅館の営業種別の違い
この中で旅館業は「宿泊料を受けて人を宿泊させる営業」、宿泊は「寝具を使用して施設を利用すること」と定義されています。つまり旅館業とは「人を宿泊させる」ことを指しているのですね。
生活の本拠を置く、アパートなどの場合は貸室業・貸家業となり、旅館業とは区別されます。また、人を宿泊させても宿泊料を徴収しない場合は旅館業は適用されません。
もともと旅館業法には営業種別が4つあり、ホテルと旅館は別々の基準が設けられていました。
- ホテル営業
- 旅館営業
- 簡易宿所営業
- 下宿営業
基準には、客室数や建造設備、最低床面積などいろいろな項目が設けられています。たとえば客室数ならホテルは10室以上、旅館は5室以上なければ営業許可が下りないといった具合です。
2016年に旅館業法が改正
しかし2016年に旅館業法が改正され、ホテル営業と旅館営業を「旅館・ホテル営業」として統合。これにより、旅館業法で定義する営業種別は3つになりました。
改正により最低客室数の基準が廃止されたり、客室1室の床面積が緩和されたりと規制が大幅に緩和されています。
まとめると、旅館業法が改正された2016年以降、厳密にはホテルと旅館の違いはありません。しかしそれ以前は細かく営業基準が分けられていたため、2016年以前から営業しているホテル・旅館には規模や設備などの面でさまざまな違いがあります。
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ホテルと旅館の違い:サービス面
旅館業法上は明確な違いがなくなったホテルと旅館ですが、提供するサービスや設備面においてはいろいろな違いがあります。
ホテルのサービス・設備
ホテルの特徴は以下の通りです。
- 客室は主に洋室
- 寝具はほとんどベッド
- 宿泊は1名~
- 朝食つき・素泊まりなどプランが選べる
旅館業法改正前の基準では、最低客室数や床面積などの規模が旅館よりホテルの方が大きく設定されていました。そのため、旅館よりも客室数が多く建物が大きい場合がほとんどです。
ホテルスタッフは希望されない限りは客室に入ることはなく、プライバシーや快適さを重視した作りになっています。
旅館のサービス・設備
旅館の特徴は以下の通りです。
- 客室は主に和室
- 寝具はふとん、もしくはベッド
- 宿泊は2名~
- 朝食・夕食つき
古き良き時代の日本文化に触れられる旅館。客室は主に和室です。
食事の時間には仲居さんが「部屋食」を運んできてくれて、食事が済んだ頃に下膳にきてくれる。片付いたらふとんを敷いてくれて……と、いわゆる「おもてなし」をたっぷりと堪能できるのが特徴です。
一方、旅館業法の改正により旅館とホテルとの違いが曖昧になってきています。「プライバシーを配慮してほしい」「食事は好きなところでとりたい」といったニーズも多いため、最近では従来の旅館スタイルにとらわれない営業を行うところも増えているようです。
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ホテル・旅館とペンションの違いとは?
宿泊施設は、ホテルと旅館だけではありません。「ペンション」についても確認しておきましょう。
ペンションとはホテル風の民宿と訳される、いわゆる洋風の民宿です。そのため、ホテルのような施設やサービスは備わっていません。また個人が運営しているところが多く、建物の規模もそれほど大きくありません。
その分、オーナーや他の宿泊者との交流が密にできたり、一人ひとりに対する手厚いもてなしが受けられたりといった魅力があります。
旅館業法では簡易宿所営業に分類されます。これは「宿泊する場所を多数人で共用する構造及び設備を設けて行う営業」のことで、ペンションの他にゲストハウス・民宿・カプセルホテルなどがあります。
ホテル・旅館・ペンションそれぞれに特色がある
ホテルや旅館、ペンション、民宿といった宿泊施設は、すべて旅館業法という法律で定義されています。もともとはホテルと旅館は区別されていましたが、昨今話題の民泊の登場や旅館の営業スタイルがホテル化してきたことなどから規制が緩和され、2016年からホテルと旅館の営業形態は統一されています。
とはいえ、それはあくまでも法律上の話。実際には、ホテルと旅館には大きな違いがありますし、お客様のニーズに合わせて選ばれます。旅館業法が改正されたとはいえ、もとから営業していた建物が変わるわけではありません。ホテルにはホテルの、旅館には旅館の特色があります。
また、ペンションにもまた違った魅力があります。ホテルや旅館のような豪華さはありませんが、手作りのおもてなしが心に響く、と根強いファンも多いもの。連泊する傾向があるインバウンドからのニーズも高く、今後の展開が期待されます。
宿泊施設ごとの特色は、働く場合にも影響します。どんな環境で働き、どんなサービスを提供したいか。そうした基準で働く場所を選ぶと、ミスマッチが少なくて済むはずです。