なぜ今、ハラル対応が必要なのか?
イスラム教を信仰する人々はムスリムと呼ばれており、その人口は世界人口の23%を占める16億人。実に、キリスト教の21.7億人に次ぐ規模です(2010年時点)。近年訪日外国人観光客が増加しており、日本では2020年に4000万人、2030年には6000万人へと増加させる目標を掲げていますが、これを達成するためにもムスリム旅行者の受け入れ環境の向上は喫緊の課題と言えます。
しかし日本ではまだムスリム対応が進んでいないのが実情。そのため政府は2018年に「訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン」を策定するなど取り組みを進めています。
出典:観光庁 訪日ムスリム旅行者対応のためのアクション・プラン
その取り組みの1つが、「ハラル対応」です。ハラルとは、イスラムの教えで「許されている」を意味する言葉。この反対がハラムで、意味は「禁じられている」となります。例えばハラル食品の例を挙げると、野菜・果物・魚・卵・牛乳などの他、イスラム式のやり方でと殺された肉など。ハラム食品には、豚肉、お酒(アルコール)、イスラム式のやり方でと殺されなかった肉、血液などが挙げられます。
こうした取り決めに対応することが、ムスリム旅行者が過ごしやすい環境を整えることにつながります。
宿泊業界に詳しいアドバイザーが、あなたに合う職場をいっしょにお探しします。
宿泊業界での職務経験はありますか?
ホテルや旅館のハラル対応の難しさ
非イスラム国である日本のホテルや旅館で、ハラルに対応するのは簡単なことではありません。なぜならハラル制度は「Farm to Table(農場から食卓まで)」と言われるように、単に豚肉や酒を口にしなければ良いものではないからです。
例えば、「動物が食べるエサについてもハラルが適用される」「輸送時に豚が同乗してはならない」といった決まりがあります。これは、ハラル食品であっても、ハラム(ノンハラル)と混ざってしまうとハラルではなくなるという考えからです。また調理過程においても同様のことが言えます。イスラム教で不浄とされているものは「ナジス」と呼ばれ、ナジスに触れた器具で調理されたものもまたハラムとされてしまうのです。
こうした細かい決まりがあるため、日本人には完全に対応するのが難しい一方で、ムスリム旅行者にとっては安心して食べられないといった現状があります。基準をクリアしていることを証明する「ハラル認証」を取得する手もありますが、日本の認証団体は基準が統一されておらず、ムスリムからの信頼度はまちまちであるとも指摘されています。
このような中で注目を集めているのが、「ムスリムフレンドリー」という考え方です。これは店の厨房や調理機器など、部分的にハラルに対応していればOKとする考え方で、ホテルや旅館、飲食店などを中心に広がっています。
ホテル&旅館業界の就職・転職についての記事
ホテル・旅館でできるハラル対応・料理編
ホテルや旅館でできるハラル対応のうち、料理に関するものを紹介します。
ハラルに対応したオードブルや弁当を用意
ホテル、旅館内でハラルに対応した食事を提供するなら、オードブルや弁当がおすすめです。ムスリム専用に用意されたお弁当であれば、ハラム食品が混在しているおそれがなく、ムスリムの方にも安心して食べていただくことができます。
料理に使用した材料がわかるよう情報開示する
ムスリムの中には、日本語がわからないので何が入っているかわからず、食べられなかったという人が少なくないようです。どんな食材で作られているのか、どんな環境で料理されているのか、そういった情報をしっかりと開示することが何よりの安心につながります。
ムスリム専用の食器を用意
ムスリムのお客様と一般のお客様の食器やカトラリーは別のものを用意します。混ざってしまうことのないよう、色を分けたり離して置いたりといった工夫を凝らしましょう。
ホテル・旅館でできるハラル対応・客室編
続いては、客室でできるハラル対応について紹介します。
キブラマークを設置、キブラコンパスの貸出
ムスリムは1日5回、メッカにあるカアバ神殿の方角に向かって礼拝を行います。客室にキブラを示す矢印型のマークを設置する、キブラの位置を確認するためのキブラコンパスを貸し出すなどで対応すると、ムスリム旅行者に喜ばれるでしょう。
礼拝用のマットの貸出
礼拝の際、床にひざをついて額を床につける動作をします。また、礼拝は清潔な場所で行う決まりとなっているため、礼拝用マットの貸し出しがあると喜ばれます。清潔を保つため、定期的に洗浄しましょう。
ハラル対応でおもてなしの心を伝えよう
世界人口の20%以上を占めるムスリム。今後、日本へのムスリム旅行者はますます増加すると見込まれているため、受け入れ態勢を整えることが喫緊の課題と言えます。しかしいまだその対応は十分ではなく、安心して旅行できないというムスリムの方も多いようです。
観光業を発展させるためにも、ホテル・旅館といった宿泊施設が率先してハラル対応を進めていかねばなりません。非イスラム国である日本が完全にハラルに対応するのは難しいことですが、ムスリムフレンドリーの意識を持てば、ムスリムが過ごしやすい環境を用意することは十分可能です。工夫を凝らし、おもてなしの心を伝えましょう。