「ここで働く」ことは、「この町で暮らす」こと。都市部から離れた静かな土地で、どのように一緒に働く仲間を迎えていくのでしょうか。
今回お話を伺ったのは、江戸時代の面影を色濃く残す日本最長の宿場町、長野県塩尻市の奈良井宿で「BYAKU Narai」を営む株式会社奈良井まちやどさんです。
約150年前の町並みが今も残るこの町で、宿の立ち上げから採用に携わってきた人事の千葉さんに、おもてなしHRの担当者とともに歩んだ5年間と、地方の宿ならではの採用の工夫についてお話を聞かせていただきました。
ここからは、千葉さんご自身の言葉でお届けします。

中山道・奈良井宿。「変わらない」を大切に守る町
私たちの宿があるのは、長野県の中山道・奈良井宿です。およそ150年前に宿場町としてにぎわった場所で、当時の町並みを、今も住民の皆さんができる限り変えないように守り続けています。
1.1kmほどの通りに並ぶ建物のうち、実は6〜7割が今も普通に暮らしている民家です。お店の前に立っても「ここは何屋さんだろう」と迷ってしまうくらい、看板も景色に溶け込んでいて、閉まっているとお店なのかどうかもわからないほどなんです。
秋実 鶴谷 / stock.adobe.com
私たちの宿も、もともと古民家だった建物を改修して、今年でちょうど5年目を迎えました。オープンしてすぐにコロナ禍に入ってしまったので、「会社はこのままで大丈夫だろうか」「今働いてくれているスタッフが離れていかないだろうか」と、ひやひやしながら過ごした5年でもありました。
正直に申し上げると、地域に根ざしていなかった私たちのような会社がこの土地で事業を始めることに対し 、多くの住民の方が不安に思っていたと思います。長年守ってきた側からすれば、町を変えるかもしれない“よそ者”が入ってくるのは、当たり前に怖いことだと思うんです。
だからこそ「ここで経営させてもらっている」というより、「地域と一緒に生き、この町の住人の一人になる」という気持ちで向き合ってきました。いつ来ても変わらない風景。それこそが、この町のいちばんの魅力だと、私は思っています。
都会育ちの私だから痛感した「ここで働く」という現実

これまで人事の仕事そのものは経験してきましたが、都市部から離れた静かな土地での採用は初めてで、その難しさを身をもって実感しました。
この土地で働くというのは、思っている以上に大変なことです。電車は1時間に1本、コンビニは車で10分も先。飲食店はお昼すぎには閉まってしまうところが多いので、うっかりするとごはんを食べ損ねます。車がないと、生活そのものが難しい環境です。
電車は1時間に1本。乗り遅れると、次がない
コンビニは車で10分先。車がないと暮らせない
飲食店は昼すぎに閉店。うっかりすると食べ損ねる
一方で、私たちの宿には「やりがいを持って働きたい」と志を抱いて興味をもってくれる若い世代がたくさんいます。
本来であれば、そうした方々にぜひ来ていただきたいのですが、都会の便利さに慣れている若い世代ほど、どうしても暮らしの不便さに直面しやすくなります。私たちが求める人物像と、生活環境のハードルが、なかなか噛み合わないんですね。
当時私たちが何より気がかりだったのは、こうした生活環境による入社後のギャップでした。 都会で思い描く「静かなスローライフ」と、実際の「地域に根ざした暮らし」の間には、どうしても見えない壁があります。
私自身、東京で生まれ育ったからこそ、このリアルな現実を「言葉」だけで伝えることの限界をいちばん痛感しています。「不便ですよ」と文字でいくら説明しても、なかなかピンと来ないんです。
求人媒体も、ダイレクトリクルーティングも、地域のタウン誌も、考えつく採用手法はほとんどやり尽くしました。興味を持ってくださる方はいても、生活環境という現実的な壁を越えて「ここで働く」と決断してくれる人がなかなか現れない。ここまで人が集まらないのか、と当時は途方に暮れる思いでした。
\人が集まらないを解決!/
採用のプロに相談をする毎日の電話は採用の話だけにとどまらない。おもてなしHRとの出会い

オープニングスタッフを探す際に求人媒体でご縁をいただいて、その流れで「人材紹介もやっています」と教えていただいたのが、おもてなしHRにお願いするようになったきっかけです。その際、私たちの専任として担当してくださった方がいました。
ただ人を紹介するだけでなく、あまりに親身に向き合ってくださるので、「どうしてこんな小さな会社に、ここまで熱意を傾けてくださるんだろう」と内心驚いていたんです。
私は、課題をやわらかく包んでもらうより、率直に言ってほしいタイプということもあり、「うちの弱いところを、はっきり教えてください」と伝えると、担当の方はその通りに、本当に率直に返してくれました。
そうして毎日電話でやり取りをしていくなかで、その熱意の理由が自然と見えてきました。
最初は目の前の採用課題についての相談でしたが、日々話すうちに「この地域をどう元気にしていきたいか」「地方創生のために、宿として何ができるのか」といった、もっと大きなテーマへと話が広がっていったんです。
担当の方ご自身も、地域を活性化させたいという思いを持って入社されたそうで、気づけば同じ目線で、この町の未来まで一緒に考えてくれるようになっていました。今の私たちがこうして宿を運営できているのは、その方の伴走があったからこそだと感じています。
プロの目線が背中を押してくれた。ともに見直した「採用の形」
担当の方は、私が「こう変えるべきかもしれない」と漠然と感じていた課題や方向性を言葉にして、「それで合っていますよ」と答え合わせをしてくれるような存在でした。
プロの目線で客観的に言ってもらえると、自分たちの中でぼんやりしていた考えが確信に変わり、思い切って社内の仕組みを変える勇気が出るんですよね。そこから、具体的な採用のかたちを一緒に見直していきました。
より多くの方と出会うため、要件を「サービス業経験」へ広げる
当初は即戦力を求めて、「ホテル経験者」を条件にお願いしていました。しかし、おもてなしHRをはじめ、他の求人媒体を使っても、なかなか条件に合う方が見つからない時期が続いたんです。
そこで担当の方と相談し、思い切って「ホテル」に限定せず、「何かしらのサービス業経験がある方」へと間口を広げてみることにしました。
すると、お会いできる方の数がぐっと増えたんです。東京などでホテル業務は未経験でも、飲食や販売などサービス業の経験がある方が、私たちの宿での働き方に興味を持って応募してくださるようになりました。
選考のリードタイムを短縮するため、面接をオンライン化
これまでは、選考の過程で必ず奈良井まで足を運んでいただく対面面接を必須としていました。
しかし、遠方からお越しいただく負担や、日程調整によって内定までのリードタイムが長くなってしまうことが、求職者の方にとって大きなネックになっていたんです。
ただ、私たちの会社では「面接は最低2回行うこと」「二次面接は必ず役員が行うこと」はどうしても譲れない部分でした。
そんなとき、担当の方から他社の選考スピードの速さや工夫を教えていただき、採用で後れを取らないために、せめて一次面接だけでもオンラインに切り替えられないかと社内に働きかけました。
もちろん、この町で本当に暮らしていけるかどうかは、実際に来てみないとわかりません。そのため、まずはオンラインで選考をスムーズに進め、内定を出した後に必ず現地へ足を運んでいただき、ご自身の目で最終確認をしてもらうという今のフローが出来上がりました。
ONLINE
オンラインでスピーディに
ONLINE
役員が必ず対応
現地
暮らしを自分の目で確認
GOAL
ギャップなくスタート
入社後のギャップを防ぐため、ありのままの「暮らし」を体感してもらう
私たちが一番怖いのは、入社後のギャップです。だからこそ、現地へ来ていただいた際は、ありのままをお見せしています。古い建物に手を入れたシェアハウスのような寮など、生活環境も包み隠さず案内します。
暮らしてみて初めてわかることが、この町にはたくさんあるんです。雪が降れば早朝からご近所の方と雪かきをしますし、お祭りがあれば参加します。フロントに立っていると、近所のおじいちゃんが「畑で採れたよ」と野菜を持ってきてくださる。その距離の近さを心地よいと思えるかどうか。
オンライン面接で選考のスピードを上げつつも、「暮らしのリアル」は実際に来て体感してもらわないとわかりません。だからこそ、最終的な入社の決断の前に、必ずご自身の目で確かめてもらう時間を大切にしています。

定着を優先し、給与の引き上げと寮費を実質ゼロに
採用が難しい環境だからこそ、せっかく入社してくれた方には、この町に定着してほしい。その思いから、まずは給与を長野県の平均より少し引き上げてみました。
さらに、寮費や光熱費も見直し、現在は寮に住む人の家賃も光熱費もほぼかからない状態にしています。もちろん一時的なコストはかかります。
でも、スタッフが安心して暮らし、腰を据えて働いてくれるのであれば、毎年採用費をかけ続けるよりも結果的に会社のためになる。そう考え、少しずつ社内の制度を変えていきました。
信頼していたから、前払いにも踏み切れた。そうして実った5名の採用
こうして少しずつ採用の形を見直していたある時期、退職が重なり、複数名を急ぎで迎えなければならない状況に直面しました。
そんなとき、担当の方から提案していただいたのが、自社の採用力を高めるパッケージプランでした。これまでの成果報酬型とは違い、定額の固定費用で必要な人数をしっかりと採用しにいくというものです。
正直、こうした施策への前払い(投資)にはリスクもあります。それでも、私に迷いはありませんでした。
これまでの丁寧なやり取りを通じて、信頼をしていましたし、「私が役員を説得してきます」と、社内に掛け合えるだけの関係ができていたからです。担当の方がそこまで言ってくださるのなら、きっと期待に応えてくれると思えました。
これまでの「人が来るのを待つ手法」から、あらゆるチャネルを使って「こちらから仕掛けていく攻めの採用」へと舵を切った結果、効果はすぐに表れました。
担当の方が私たちのために出会いの母数を大きく広げてくださったことと、先ほどお話しした「サービス業経験まで要件を広げる」という工夫とが相乗効果を生み、最終的に5名もの採用に至ったんです。
なかには、他県で働いていた方が長野へ戻ってくるという嬉しいUターンのご縁もありました。
一つひとつの小さな見直しと、覚悟を持った新しい挑戦が、こうして確かな結果に結びついたのだと、今振り返っても強く実感しています。
この町で働く・暮らすことを、もっと楽しく。これからの宿づくり

今回の急募では、パッケージプランで5名を迎えることができ、大きなピンチを乗り越えることができました。
ただ、宿としてのこれからの未来を見据えると、採用活動に終わりはありません。まずは直近の体制をしっかりと充足させ、維持していくことが目の前の目標です。
その一方で、不便な環境であることは変わらないので、今後も福利厚生をもう少し整えたいと思っています。
私たちの宿は、フロント業務からレストランでのサービス、時には清掃まで、すべての業務を全員で柔軟に担う少し変わったスタイルです。
そのため、スタッフからは「いろんなポジションを経験できて面白い」と言ってもらえることが多いんです。食材も長野のものにこだわり、冬にはジビエの熊料理をお出しすることもあります。
マルチタスクならではの大変さを「楽しい」と思ってもらえたら、きっとここで働くこと自体を面白がってもらえるはずです。
せっかく仕事を楽しんでくれているからこそ、今後は仕事とプライベートの間の時間を、もう少し心地よく過ごせる環境に作り込んでいけたらと思っています。
同じように地方の採用で悩む人事の方へ
地方の魅力や暮らしのリアルは、求人媒体の限られた文字数だけでは、なかなか伝えきれません。
だからこそ、自分たちのことを深く理解してくれる伴走パートナーの力を借りることで、マッチング率は格段に高くなると感じています。
大事なのは、「自分たちの宿にできること」と「どんな人に来てほしいか」の二つを丁寧に言葉にして、深掘りしていくこと。地域や環境によって効く手法は違います。
だからこそ、ただ媒体を売るだけでなく、自社の課題に寄り添い、ともに考えてくれるサービスやパートナーを選ぶのが一番だと私は思います。
1
ホテル経験者に限定せず、出会いの母数を広げる
2
譲れない軸は守りつつ、内定までのリードタイムを短縮
3
内定後に必ず現地へ。入社後のギャップを防ぐ
4
定着を優先。採用費をかけ続けるより会社のためになる
5
信頼できるパートナーと、待ちから仕掛けへ舵を切る
\地方採用のお悩み、一緒に考えます/
おもてなしHRに相談する

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